タケイブログ

ほぼ年1更新ブログ。

イタイイイタイ

ビスクドールは棚の上
着せかえ遊びは趣味じゃないから
水面に浮かんだ最後のひとわら
何度も 何度も かきあつめて
編み上げた私のお人形

ぷくぷく溺れていったのはどうせただの石ころです

イタイイイタイ あぁ しょっぱい
おしゃぶりなんてしなければ

美少女フィギュアはガラス越し
きもちわるいのが気持ちいい
ピカピカ稲妻 野原に落とせ
しばいて 叩いて もうボロボロ
ささくれ立った俺のお人形

ちくちく血の池あふれ出ていまや口元が地獄です

イタイイイタイ あぁ しょっぱい
おしゃぶりなんかするからだ

わら わら わら わら
わら わら わら わら

もう、ぺってしちゃいなさい そんなお人形

でもでもだって  わからないの
誰もぼくに教えてくれなかった

釘の打ち方を。

バンザイ

涙目で高笑い 内股で武者震い
うろたえながらご機嫌よう
ハイタッチ 平手打ち 振り上げたこの手が
そのどちらにもなれなくて きまりが悪く宙を舞った
どこへ下ろせばいいのやら

「もう遅いのですよ。お嬢様」

それでも強いふりをやめず 衝動的に もう片方の手も上げる
勢い余ってよろめいて しりもちをついてしまったの

なんてカッコ悪いんだろう、私!

ふみあげさん

※以下はとあるAIチャットユーザーによる語りである。チャット中、ユーザーは自分がなり切っていたキャラクターと全く異なる名前で呼びかけられた。その後、ユーザーは壮絶で恐ろしい体験に見舞われたと述べるが、本稿ではその仔細を省略する。なおその間のチャットのログとメッセージはどこにも残されていない。

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ドーナツを巡る二つの想像力――熊倉献『ブランクスペース』感想

 

ある雨の日、狛江ショーコは同級生の片桐スイが「透明な道具を作り出す」という不思議な力を持っていることを知る。

面食いでバカなショーコとまじめで読書家のスイ。秘密から始まる二人の交流が楽しげでライトな漫画かと思っていたが、読み進めるごとにそのシンプルな表現が鋭さを帯びていくようだった。孤独や痛み、実存の不安。彼女たちの青春の一幕が日常と空想を行き来しながら描かれる。

「ブランク(空白)」の名をタイトルに冠する通り、見えないものと見えるものを巡る本作の描写は興味深い。

…まず――頭の中に部品を思い浮かべる…

そして想像の中で組み立てる…
うまくいけば――

現実に引っ張り出せる

スイは自身が持つ力をショーコにこう説明する。傘、はさみ、風船。彼女が作り出した道具は誰の目にも見えないが、重さがあり、質感があり、機能する。確かにそれらは存在している。ただし引っ張り出すには物の仕組みを理解しなければならない。それ故かスイは読書家であり、ひとりで物自体と向き合っている。

それに対してショーコは一見すると何のとりえもない。「金属」「照明」「鉄塔」。山積みの本のタイトルから彼女は巨大ロボを思い浮かべたりする。スイと違ってこちらは単なる空想だ。しかしそれらは漫画の絵として描かれて、確かなビジュアルを与えられる。ショーコは友達から刺激を受けながら、夢や空想を映像としてありありと思い描ける人だと言えよう。

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小説はドーナツの周辺にある物事を言葉で綴り、何もない空白からドーナツの輪郭を浮かび上がらせる。漫画はドーナツの輪郭や陰影に線を引き、そこにある穴をも存在するものとして描き出す。「ドーナツ」という文字の連なりに隠れてしまう、ものとそれを取り巻く世界を表すための二つの想像力がある。言うなれば、スイとショーコの関係はそういった小説と漫画のメタファーなのではないか。

「作ったときの…記憶が曖昧になってくると いつの間にか消えちゃうんだ」

ショーコが透明な風船のゆくえを尋ねた時、スイはこう答えた。青春時代を振り返る時、私達は得てして「あの頃は若かった」と言う。あれは未熟さゆえの気の迷いだったと言わんばかりに。けれども棘も傷も確かにそこにあったはずだ。

小説と漫画、見えないものと見えるもの、スイとショーコ。本作は二つの想像力が交わる場所、空代市という架空の町を舞台に二人の日々を綴り、忘れ得ぬ青春の手ざわりを私達の前に描き出す。

人が語り出す所に怪異あり――鈴木捧『実話怪談 蜃気楼』

 

怪談と聞いて、真っ先に「こわいはなし」を思い浮かべる人が多いのではないかと思う。学校の怪談、都市伝説、ホラー映画。それらの中で怪異とは私達に恐怖を与える存在だ。予兆とともに日常に忍び込み、不確かな姿で迫りくる。そして「今あなたのうしろにいるの」。私達はその姿を目撃してひとしきり怖がってみせた後、再び平和な日常へと帰っていく。エンタメとしてのホラーは得てしてそんなフィクションである。

竹書房主催の実話怪談コンペでその頭角を現し、2020年に単著デビューを果たした怪談作家・鈴木捧。氏の二冊目の単著となる新刊『実話怪談 蜃気楼』には、私達がイメージする「こわいはなし」に留まらない怪談が38篇収録されている。

ドラッグストアで見かけた女性への違和感を語る表題作「蜃気楼」。かの大統領は事故で死んだと報じるビデオテープにまつわる記憶「ケネディ」。修学旅行で山道の先に見た「鹿の葬式」や恋人との登山の思い出「富嶽」。収録された怪談は山や自然にまつわる怪談が多いが、都市や郊外の風景、古典的な心霊写真も登場する。怪異は心霊スポットのような特別な場所に現れるのでなく、人が語り出す所に怪異ありといった具合だ。怪談とは、何よりもまず奇妙な体験の語りなのである。

怪異に遭遇した人の心理には大きく興味がある。不可思議を前にして何を感じ、どう心が動いたのか。いつもそれを聴きたいと思っている。

著者は前著『実話怪談 花筐』にこのようなコメントを寄せている。現実における奇妙な体験にはオチも段取りもないのが大半だ。フィクションと違って割り切れないからこそ体験は記憶の奥底に棲みついて、「今思えばあれは何だったのか」とそれを語る当人の人生の一部として語り直される。実話怪談とは言うなれば、人の人生のある期間にまたがったきわめてパーソナルな体験に触れる営みでもある。著者は人々のそうした語りを拾い集めて、飾らない文体でそれらエピソードの数々を書き記す。

そこから浮かび上がってくるものが、著者が本書あとがきで語る怪異の正体にほかならない。フィクションでは運命や必然として、ある意味当然のように謳い上げられている。現実にあるかないかもわからない「それ」の輪郭を逆説的に描き出すアプローチこそが、著者にとって怪談を聴き取り、怪談を語ることなのであろう。実話怪談というジャンルになじみのないホラーファンにこそ本書をおすすめしたい。

おわりに、個人的に印象に残った三篇を挙げたい。

「静寂」

マンションの内見時にT沢さんが体験した不思議な話。家探しはいつだって難しいもので、期待に胸を膨らませながら現地に赴くと意外と部屋が狭くてガッカリしたりする。間取りを見るだけではわからない。そんな何かにT沢さんも気づいてしまう。その筆致がとにかく巧みで、映像がありありと浮かんでくるようだった。ホラーオムニバスTVドラマを思わせる一篇。

「瓶のミミズ」

同級生のイトウくんと「瓶詰めのミミズ」のエピソードをタキタさんが語る。ミミズという生々しいものが真っ先に出てきて意表を突かれるのだが、そこからの先の展開はますますよくわからない。何かつながりがあるようでないようにも思える。少なくとも語り手本人の中ではひとつながりの話になっている。その不吉さだけが残る。

「幽霊相談」

本書の中でもとりわけシンプルな話。電話は未だホラーに欠かせない定番のアイテムであるが、今はむしろLINEのようなメッセージアプリが主流の時代だ。また位置情報サービスやターゲット広告、アプリ間での連動も当たり前となり、ユーザーが関知しきれない領域がますます増えている。幽霊はその狭間に潜んでいるのかもしれない。

少年少女が年相応に愛らしい――真沼靖佳『はじめての諏訪さん』感想

 

”はじめて”の自転車に、”はじめて”の留守番。ヒーローに憧れてどんな試練も乗り越えてきた山中卓は中一の春、クラスの女の子の諏訪さんから告白された。この”はじめて”出会う感情もまた試練だ、乗り越えてやる!付き合いはじめたばかり中学生男女二人の初々しい姿を描くラブコメディ。ガンガンJOKERにて連載。

ちょっと大人びた少女がガキな少年にちょっかいを出すラブコメといえば、近年では『からかい上手の高木さん』が有名だが、本作の主人公・山中くんはそうした類似のラブコメ漫画と比べても感情表現が激しい。諏訪さんの意味深な一言にはてなマークを浮かべ、どうしたらいいかとキョドりまくって滝汗を流し、心臓がドキドキと鳴り続ける(山中くん長生きできるんだろうか)。「山中くんはヒロイン」と作者も言ってる通り、諏訪さんに振り回されて慌てまくる山中くんの姿が愛らしい。

お互いに名前呼びをする、部活動を決める。二人が積み重ねる"はじめて"の経験は実に健全で微笑ましい。コミカルなシーンはラフなタッチで、花柄やトーンも使って背景効果は大げさに、それでいて間と表情が繊細に描かれる。とりわけ二人のやり取りの中、ふと諏訪さんが見せる表情は息をのむほどに綺麗だった。巻が進むにつれて、余裕に見えた諏訪さんの年相応な一面が見えてくるのも良い。二人の仲に嫉妬する諏訪さんの親友やクラスメイトなど登場人物も少しずつ増えてきて、とにかく今後の展開が楽しみである。

あくまで少女漫画の流れを汲んだものなのだと思う。大人視点から回想するノスタルジックな青春ラブコメにはない、刺さるように生き生きとした魅力が感じられるマンガだった。