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「円環少女 ままま∞ワワワ」(『魔法少女まどか☆マギカ』感想)

 『魔法少女まどか☆マギカ(以下、まどマギ)』を観終わった。好きな作品かと問われるとそうでもないけど、圧倒的に面白い作品だったことは確か。数々の王道に支えられつつも、蒼樹うめ氏、新房昭之氏、劇団イヌカレー、シャフト、そして虚淵玄氏。それぞれの作風の背景にあるものが結びついて、キメラ的な魅力を醸し出していたのが楽しかった。
 「26話かけてエヴァがやろうとしたことの答えであり、ポスト・エヴァの作品に対する批評である」という感想も所々で見るけど、正直その辺の批評的な価値はあまりわからない。ただリアルタイムでこの作品をきちんと観ることができたのは僥倖。『まどマギ』を受けてどんな後続作品が出るのか密かに楽しみにしてる。

 批評や感想は散々ネットに書かれているので今更なんだけど、自分なりにまとめておく。ネタバレアリなので注意。


■『魔法少女まどか☆マギカ』は「環(わ)」の話である

「すべての魔女を生まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来のすべての魔女を、この手で――」

 それまで普通の少女に過ぎなかった主人公の鹿目まどかは、最終話でこのように願った。何というか微妙に不穏な感じがする言葉遣いだが、とにかく願った。願いを叶えてもらう代償に魔法少女として魔女と戦い、いずれは自身も呪いを振りまく魔女になるという、悲惨な仕組みを変えるために。そしてこの希望から絶望を生むこの魔女化のルールは改変され、まどかは魔法少女という概念そのものになる。
 さて彼女の「まどか(円)」という名前が象徴するように、『魔法少女まどか☆マギカ(以下、まどマギ)』では「円(環、輪)」がキーワードとなっている。(本編で何かと扱いが不憫な)マミさんも「円環の理」という言葉を出していたが、何とも自己言及的なものである。

 「円環」からいかに抜け出すか――これが『まどマギ』のテーマの一つであるのは言わずもがなだろう。そしてそれは、これまで量産され続けたループものや日常系作品やセカイ系等、諸々の作品に対する回答でもある。
 そうした作品には疎いのだけど、とりあえずはこの「円環」を「環(わ)」と呼ぶことにして、『まどマギ』にはどんな「環」があったのかについて、以下にまとめる。


■第一の「環」――ほむらのループ

 まず最もわかりやすい「環」は、まどかを救うためにほむらが陥った時間のループだろう。
 大切な友達のまどかの死、もしくは魔女化という事態を前に暁美ほむらは、その能力で同じ時間を繰り返し、運命を変えようと試みる。その為にほむらは、主題歌『コネクト』の歌詞さながらに未来をなくしてしまう。
 この「環」はループもののテーマを受け継いでいる。自分が実際に観たもので今思い出せるのは『仮面ライダー龍騎』『涼宮ハルヒの憂鬱』とか。他にもひぐらしとかFateとか、ラノベギャルゲエロゲ問わずいろいろあるのだろうけど、その辺は省略。
 第10話にて「もう、誰にも頼らない」と決意したほむらは、おそらく彼女は作中で描写されている以上にはるかに多く、この「環」の中を回り続けたことだろう。まどかを救済する可能性だけが彼女の体を歩ませる。その希望ですらほとんど諦念じみているのだけど――ともあれキュゥべえの語る所によれば、彼女の希望が尽き、絶望した時、彼女は魔女と化す。彼女が諦めた時、希望を推進力にまわるこの「環」も終わってしまうのだ。

 とはいえいくら希望があっても、ただ独りで前に進むだけではこの「環」からは抜け出ることはできない。それは作中で描かれた通りだ。確かに設定の上では、ほむらがループを繰り返すことが、結果としてループからの脱出へと繋がっている。しかしまどかの関与がなければ、ほむらは救いようのある形でループから脱出することはできなかった。「ワルプルギスの夜を倒す」「まどかを魔法少女にさせない」という、ほむらのこの「正攻法」がどれも役に立たなかった点は留意すべきだと思う。
 ループものでは得てして、ループを抜けるヒントが当事者の想定外の所に存在する。ループを繰り返すこと自体は、最良/最悪の結果に向かう遠因にこそなれ、直接的な手段とはなりにくい。『まどマギ』もまたその例外ではない。


■第二の「環」――希望と絶望のサイクル

 もう一つの大きな「環」が『まどマギ』には存在する。魔法少女の魔女化によるエネルギー生産システムのサイクルだ。
 魔法少女が魔女を倒し、その魔法少女が魔女となり、別の魔女に倒される。その過程で発生する、希望が絶望へと転じる際の感情エネルギーをキュゥべえことインキュベーターたちは採取する。このサイクルは有史以前から行われており、人間の進化にも寄与してきたという。
 この「(同族たちによる)永きに渡り繰り返される、仕組まれた戦い」という要素は、バトルロイヤルものから受け継がれたものだ。自分の知る限りでは『仮面ライダー龍騎』『Fate』シリーズ、『舞-HiME』等。バトルロイヤルものにループものの要素が含まれているという点では、『仮面ライダー龍騎』がとてもよく似ている。そしてこの「環」もまたほむらのループと同様に、根本的な構造そのものが変わらない限り悲劇が繰り返される仕組みとなっている。

 ところでこのシステムは、(キュゥべえの弁によれば)人類とインキュベーターの双方に利益をもたらすが、そもそも重大な欠陥を抱えている。なぜならこのサイクルは、人類の存続と魔女と同等かそれ以上の魔法少女が誕生し続けることが前提にあるからだ。
 本編の徹底した等価交換の原則を考えれば、強い魔力をもった魔女を倒すためには魔法少女の側にも同等の魔力が必要であると想像できる。事実、ワルプルギスの夜を倒したまどかは最強の魔女となってしまう。魔法少女もまたいつかは魔女と化す運命をたどることになる。本編ではワルプルギスの夜の到来によってこのサイクルが局面にたたされていたが、遅かれ早かれ必ず起こり得る問題だったことには違いない。
 (ついでに書いとくと、人間に対して契約の概念を持ち出す以上、インキュベーターはこの欠陥に対して責任をとるべきなんじゃないのかしら。いや彼らの論理からみても、貴重なエネルギー源の放棄なのではこれは。必ず人間は生き残るであろうという楽観か、はたまたノルマも達成して人間が必要なくなったのか。「あとは君たち人間の問題だ」とか、とにかく絶対悪意あるだろうこいつら)
 まあそれはさておくとして。人類と魔法少女の存続を前提するこの「環」もまた、ほむらの陥ったループと同様に、ある意味では希望を推進力として回り続けるものであるといえる。


■第三の「環」――魔女の自己完結性

 このように『まどマギ』には、人間の希望を推進力として回り続ける二つの「環」が存在する。そしてこの二つの「環」は、ワルプルギスの夜の到来を接点としている。
 最大級の魔女、終末をもたらす存在。来るべき災厄であるワルプルギスの夜。その上半身はドレスを着た女であり、下半身は機械じかけの運命を象徴するかのような歯車である。けれどもその体は常に逆さを向いていて、どちらが頭なのか、本当の所はわからない。
 この歯車が回転や円運動を連想させるモチーフであることに注目すると、ある推測が成り立つ。

 魔女もまた「環」の中にはまりこんだ者なのではないだろうか。
 
 魔女については、公式HPの魔女図鑑が詳しい。絶望の果てに魔女と化した者たちは、叶わぬ欲望を埋めようとするかのように、自分だけの異空間(いわゆるイヌカレー空間)を作り上げる。その中における魔女の習性が、魔女図鑑には逐一記されている。
 一読して感じるのは、魔女がきわめて自己完結的な存在である、ということだ。利己的で、無思慮で、一つの目的のために延々と単純な行動を繰り返す。美樹さやかが魔女化したオクタヴィアは特にそうだ。自ら生み出した異空間の中に、幻の楽団とかつての想い人である上条の影を生み出し、彼らのためにひたすら献身を繰り返す。
 自らの習性に従い、ぜんまい仕掛けのおもちゃの如く動き続ける。ワルプルギスの夜の造形が象徴するのは、そのような魔女の性質なのだろう。かつて希望に満ち溢れて魔法少女になったものたちは皆、絶望の果てに魔女となる。前も後ろもないその場所で、己の内側に小さい「環」を作り、そこを永遠に回り続ける。端からみればそれは立ち止まっているに等しい。
 魔女はそのような「環」に迷い込んだ者たちなのだと思う。

 そしてこれはあくまでも整合性を無視した妄想なのだけど、魔女化が効率的なエネルギーを生み出す所以はそこにあるのではないか。点と呼ぶべき程に小さなその「環」を回るのに大きなエネルギーは必要ない。感情が莫大なエネルギーを生み出した後にその空っぽの心に残る、滓のようにわずかなエネルギー。それだけで魔女は、たとえ人間が滅んだ後でも半永久的に存在し続ける。
 魔法少女に倒されるまで、魔女はきっとその歯車の回転を止めない。


 さてこのように「まどマギ」では、三つの「環」が重なるような形で存在し、それらはワルプルギスの夜の到来で接している。魔女もほむらも人類も(ついでにいえばキュゥべえも)「環」の中にあり、その接点の向こう側に続く未来を閉ざされている。
 「環」にはまった者は一体どうすればよいのか。そしてそもそもなぜ環にはまるのか。それらについても書きたいのだけど……思いの外、長文になってしまった。

 あとの残りはもうほとんど主張というかポエムになりそうな気もするけども……続きは次回。

 ただ一つだけ先取りして述べさせてもらうと、魔女の「環」は日常系、ほむらの「環」はセカイ系、システムの「環」はバトルロイヤルものに対応していて、全体としてはエヴァ以降(?)のループのモチーフに対応させられそうだなーとか。そんなことを考えてたりします。

疲れた……。

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