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ほぼ年1更新ブログ。

2017年鑑賞映画総括

どうも年1更新ブログです。皆様2017年いかがでしたか。
今年もやります。毎年恒例映画ベスト記事ですよ。

過去分はこちら↓
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■映画鑑賞本数&総合ベスト10

新作:53本
旧作:6本
合計:59本

年120本は見ていた数年前と比べて数がすっかり少なくなりましたが、それでも週一ペースで見てると思えばまあ良い方なんだと思う。

2016年からカナダに滞在している身の上ですが、こちらの映画視聴環境そのものは悪くありません。シネコン名画座もあるのでハリウッド大作はもちろんミニシアター系も見る機会があります(トロント映画祭もありますし)。何より一本10カナダドル(現レートで約900円)前後、一番安くて5カナダドルで観れるのがありがたい。

ただ邦画に関しては、特集上映でもない限りまったく見るチャンスがありません。今年はAmazonビデオで『貞子VS伽倻子』『クリーピー 偽りの隣人』、一時帰国時に機内で『君の名は。』(アニメの方です)を見たくらい。邦画の良い評判をいろいろ聞いているだけにその点は少しだけ残念です。

さて今回も評価基準ごった煮で新作ベスト10を以下の通り選出しました。

1. ワンダー・ウーマン (Wonder Woman)
2. ザ・ディザスター・アーティスト (The Disaster Artist)
3. シンクロナイズド・モンスター (Colossal)
4. スパイダーマン・ホームカミング (Spider-Man: Homecoming)
5. IT/イット それが見えたら、終わり。 (IT)
6. LOGAN/ローガン (LOGAN)
7. ザ・フォーリナー (The Foreigner)
8. スプリット (Split)
9. SING/シング (SING)
10. ライフ (LIFE)

■各作品へのコメント

●1. 『ワンダー・ウーマン (Wonder Woman)』

絵画のようなスローモーションにやりすぎなくらいパワフルなアクション、神話の英雄のごとき彼女の活躍を目の当たりにして思い至る。『ワンダーウーマン』が目指したのはスーパーヒーロー映画のルネサンス、悲惨な現実を戦い抜かねばならない僕達に道を示す存在として、ヒーローを描き直した映画なのだと。

個人的にぐっと来たシーンが二つある。一つは少女ダイアナが母の言いつけに背いてアマゾネスの訓練の真似事をするくだり。崖から飛び降りたのをすんでの所で救われた時、彼女は泣いたり怯えたりせず笑顔を見せる。戦士への憧れと己の力を信じて疑わない、その真っ直ぐさがまぶしかった。もう一つはダイアナが露店でアイスを食べるシーン。その味に"Wonderful!"と感動した彼女が "You should be proud!!"とアイスクリーム屋を誉める。路傍の人に向けられたわずか数秒の敬意に、ああ僕達が忘れているのは己を誇ることなんだと気づかされた。

ダイアナにあるのは「人が人らしく幸せに生きること」への揺るぎない信頼であり、本作ではそんな彼女の目から戦時下の矛盾が照らし出されていく。そして人の命と尊厳が理不尽に奪い去られる戦場の前線でついに彼女が立ち上がる。このワンシーンが最高にカッコいいんです。誰もが止めろ、現実的ではないという。けど彼女には力があり、進むべき道も見えている。そんな時、あなた達は立ち上がることができるのかと。そんな問いを突きつけられたように感じました。

正直これらのシーンがなければ「クソ真面目な映画だなあ」で終わっていたでしょう。しかしながらここ数年、ヒーローものが扱う「正義」は何ら特別なものでなく日常のさまざまな場面で起こるものだという実感を抱いています。僕自身のそうした思いと映画の盛り上がりが奇跡的に一致して、今回ヒーローものではじめてボロボロと泣いてしまいました。

とにもかくにも人間賛歌。今年のベスト1映画です。

●2. 『ザ・ディザスター・アーティスト (The Disaster Artist)』

悪名高きカルト映画『ザ・ルーム』を撮り上げた男トミー・ウィソー。その協力者グレッグ・セステロの伝記をジェームズ・フランコ監督主演で映像化した本作。笑いと気まずさと悲哀の入り混じった2017年の締めにふさわしい一本でした。

不要なセットを一から組み立てさせ、キャストやスタッフに水やトイレも用意せず、セックスシーンはトミーの尻丸出しで挿入してるように見えない、彼の出演シーンは何十回もミステイク……。当然スタッフとは対立し、グレッグとの溝も深まるばかり。そんな悲惨な現場が面白可笑しく描かれている。素性も年齢も不明、妙なアクセントで喋るトミー。彼が「なんだかやばいやつ」なのは観客の目には明らかなのですが、若いグレッグは惚れ込んでしまうし、その後も彼を見捨てることができない。実際トミーにはなぜか行動力と金だけはあるから事はどんどん進んでいく。

何よりすごいのはここまでグダグダな『ザ・ルーム』が何だかんだ公開までこぎついてしまったこと。制作が頓挫した作品は映画史に数あれど、一人の男の稚拙な妄想が形をなして世に出回り、衆目に晒され散々な評価を受けながら結局は愛されるまでに至る。そうそうお目にかかることのできないもので、それ自体一つの感動的な出来事ではないかと。

実は本作には重要な設定に嘘があるのですが、それはこういった『ザ・ルーム』への批評的視点を映画に織り込むための仕掛けなんですよね。カルト映画の混沌から一筋のドラマを見出した本作。お見事です。

●3. 『シンクロナイズド・モンスター(Colossal)』

「大いなる力には大いなる責任が伴う」

スパイダーマン(2002)』でベンおじさんがピーター・パーカーに遺した言葉。彼のこの一言が導きとなり、突如手に入れたパワーに浮かれていたピーター・パーカーはやがて人々を助けるスーパーヒーローへと成長を遂げました。ヒーローもののエッセンスが凝縮された、個人的にも好きなセリフの一つです。

その一方で別の疑問も浮かびます。ならば力を持たぬものは責任をとらなくてよいのか?卑小な私達がとるべき責任もそれ相応にちっぽけなものなのか?

もちろん答えは否。どんな人間も逃れられない重責がある――己の人生に対する責任です。人生のツケはいつだってついて回り、時に耐え難い重みをもって今の自分にのしかかる。それに耐えきれなくなった時、人は周囲を巻き込み被害を及ぼすモンスターと化す。だからこそ身の丈というものは常に自覚しなければならない。

本作『シンクロナイズド・モンスター』の原題は”Colossal(非常に大きな)”。colossalが巨大怪獣を表しているのは言うまでもありませんが、同時にそこには怪獣を“非常に”大きいと感じる、ちっぽけな人間達がいる。この巨大怪獣と卑小人間の対比こそが本作の見所であり、およそ短編向きと思えるアイデアに痛快さと不穏さと一抹のやりきれなさを与えているのです。

●4. 『スパイダーマン:ホームカミング (Spider-Man:Homecoming)』

でもやっぱり若いうちは元気無邪気、むやみやたらに飛び跳ね回っていて欲しい。そう思ってしまうのは大人のわがままなんでしょうか。そんな視点から見た時、『スパイダーマン:ホームカミング』は本当に気持ちのよい映画。トリッキーで軽快なアクションと後腐れのない展開が爽快でした。

先に述べた通り、サム・ライミスパイダーマンが三部作通して描いたのは「力を持つものの責任」という正統派ヒーローものであり、そこには「大人にならねば」という規範意識があった。また『アメイジングスパイダーマン』二部作は今思えば、過渡期としての青春を描こうとしていたように思います。そしてLOGAN、デッドプール、GotGと、マーベルが多彩なアプローチでスーパーヒーロー映画の枠を押し広げている現状、今作でスパイディの描かれ方が変わったのもまた必然なんだと思います。

本作冒頭、スパイディが撮影したシビルウォーの舞台裏映像に顕著ですが、ピーター・パーカーの根っこはやはり若者なんですよね。重苦しい葛藤や鬱屈は未だ抱えず、ただアベンジャーズに素朴な憧れを示すティーンエイジャー。周囲の大人がどんな期待を寄せようが、今後のシリーズを通してピーターはピーターなりの成功と失敗を重ねるのでしょう。だってそれこそが若さなんですから。

5. 『IT/イット それが見えたら、終わり。』

少年達の一夏の冒険を描いたジュブナイルでありながら諸々の描写がエグく、全体を通して邪悪な雰囲気が付きまとう。見世物精神と豊かさを兼ね備えるホラー娯楽作。

何よりもまず”It”ことペニー・ワイズが素晴らしい。恐怖演出が心霊寄りか物理寄りか、そのバランスがホラー映画の難しい部分ですが、今作では冒頭から彼の物理的な側面をはっきり示してるんですよね(「あ、ここまでやるんだ」とびっくりしました)。その上で、子供騙しめいたグロから映像メディア越しの精神攻撃まで、多彩で茶目っ気のある驚かし方をしてくる。人の心への挑戦者=悪魔でありながらも実体をもって迫りくる怪物。この二つを両立させるのはなかなか難しいのではないかと思います。

さらに本作では少年少女の家庭事情や街の歴史といったものが、ある意味ペニー・ワイズ以上にえげつなく描かれているんです。恐怖は外からやってくるのでなく、私たちの内側から滲み出て少しずつ堆積していく。汚水とともに流すことのできない恐怖の化身がペニー・ワイズなんだと。こうした形のない忌まわしさを本作は映像一つ一つで語っていました。

見る前はあまり期待してなかったのですが、思ってた以上に味わい深い映画。

●6. 『LOGAN/ローガン

荒野と車とおっさんと、そして少女と。Xメンシリーズの華々しさ皆無な血まみれロードムービー

ヒュー・ジャックマンの同役引退が話題の本作だけど、それ以上に今作が銀幕デビューとなるダフネ・キーンが気迫と魅力に満ちていましたね。R指定×少女の格闘戦の絵面もエグくて、敵の間を飛び跳ね叫び回る戦い方はウルヴァリン以上に獣らしかった。もちろん不死でなくなったウルヴァリン=ローガンの剥き身の戦いぶりも凄まじく、作品全体に漂う老いのイメージとの対比でその痛ましさが際立っていました。

老いたエグゼビア教授が住むボロ小屋や最早ミュータントのいない世界という設定。それらに象徴されるように、本作がこの十数年でマーベルが広げてきたスーパーヒーロー映画の可能性、その極北にある作品なのは間違いないでしょう。スピンオフの締めくくりとしても大変素晴らしい出来でした。

ついでに敵役のボイド・ホルブルックブラッド・ピットライアン・ゴズリングのあいのこみたいな顔……というのはさておき、敵部隊のリーダー格ながら強すぎず残虐すぎない、ちょっと出来るゴロツキといった具合のキャラクターが素敵でした。もっと活躍してくれてもよかったのに。

●7. 『ザ・フォーリナー (The Foreigner)』

「老い」にまつわる映画といえばもう一つ、今年はこれがありました。

娘のため奮闘する親父という点がリーアム・ニーソン『96時間』シリーズを彷彿とさせる一方、爆弾魔を探すべく対テロ組織を粘着的につけ回すという若干ズレた展開には「私刑」の印象が甚だしい。個人的にはヒュー・ジャックマンの『プリズナーズ』を思い出しました。さすがにジャッキーの演技にヒュー・ジャックマンのような凄みはないのですが、役柄には十二分に応えるもので、彼の無表情でみすぼらしい顔や痛がる姿がとても印象的でした。

さらに演技過剰でないことにより、ジャッキーならではの軽業アクションと荒唐無稽な展開が無理なく映画に馴染んでいる。「ジャッキーの新境地!」という評判に惹かれて本作を見ましたが、映画そのものは背伸びし過ぎずB級映画の枠で面白いものを作っているんですよ。そこがとても好印象でした。やや暗いトーンながらも後腐れなく楽しめるし、土台となるクライムサスペンス要素も割としっかりしていて見応えのある映画です。

あときわめて個人的な話ですが、僕の父親がジャッキーと同じ63歳なんですよね。両親や同世代の見回せば生老病死が視野に入ってくる、そんな年齢に僕自身がなってしまった訳ですが……ジャッキーがあれだけ動き回って新しいことにチャレンジしてるんだ。そう思えば少し元気もでますし、両親にも引き続き健康でいてもらいたいものです。

●8. 『スプリット (Split) 』

毎年映画ベスト記事は大まかな順位だけ決めて順不同で書いており、実はこの感想を最後に書いています。この映画のどこが良かったかなあ……と机に向かいながら考えているのですが、思い返してみれば本作『スプリット』が実は今年一番ワクワクした映画だったような気がします。

本記事で僕が挙げた他の作品は「あるべき姿を全うした映画」だと思っていて、作品のテーマなり世界なりワンアイデアなりを高い出来で実現しています。その一方、本作のあるべき姿というのは意外と見えてこない。昨年の『ヴィジット』しかり一斉を風靡した『シックス・センス』しかり、シャマラン自身はテクニカルな映画づくりをする監督であるにもかかわらず、です。これはまったく悪い意味でなく、アンバランスで先が読めないからこそ個々のシーンに鋭い面白さがあるということ(今作は特にマカヴォイの存在が大きい)。そして分断された人格が統合されていくようにラストに向けてそれらが着実にまとめ上げられていく。そこにあったのは、言うなれば週刊連載漫画や1クールアニメのようなワクワク感だったのかなあと。

ちなみに本作では過去作『アンブレイカブル』とのつながりが示され、これらと世界観を共有する新作『GLASS』の制作が発表されています。M・ナイト・シャマラン、奇想に満ちた監督であると同時にまとめるのも上手い監督だと思うので「シャマラン・ユニバース」の今後には大いに期待しています。

●9. 『SING/シング

イルミネーション・エンターテイメントの前作『ペット』では、3DCGで描かれた動物たちの動きがあまりに忙しなく正直辟易したのですが、今作は筋立てから見せ方まで全体としてはオーソドックスなつくりで、見ていてとても気持ちの良い映画でした。コアラになってもマコノヒーは男臭いし、タロン・エガートンのゴリラは思いの外美声だし、スカーレット・ヨハンソンヤマアラシは服装込みで可愛いかった。懐かしの名曲にのせて動物達がステージで歌い踊る姿はシンプルに楽しい。

その一方で世知辛さを感じる描写も節々にあり、それらが良いスパイスになっていました。自分の時間を作るためにブタ母がつくった自動家事育児マシーン、精肉工場めいててブラックです。

●10. 『ライフ (LIFE)』

最後は佳作枠。”Happy Death Day”とどちらにしようか迷いましたが、クリーチャー造形好きなんでこっちを入れました。

宇宙ステーション内で巻き起こる宇宙生物の暴走。まんま『エイリアン』の2017年版って感じですが、船内外の空間や宇宙生物の造形、無重力表現がアクションにしっかり落とし込まれているあたり良かったです。特に宇宙生物Calvinのデザインが秀逸で、宇宙船=無重力空間の密室に適応した生物としてみると大変説得力のある挙動だと思いました。ゴキブリポジションの肉食生物が宇宙にいたらこんな感じになるだろうなあと。

あとは映画冒頭、船内移動シーンの疑似ワンカット映像が『ゼロ・グラビティ』以後の映画だなあとか、相変わらずジェイク・ギレンホールかっこいいなあとか、真田博之の英語ってこんなに日本語訛りだったっけとか、Calvin刺身にしたら美味そうとか。思ったのはそんな所です。正直いえば目新しさも残るものもない作品ではあるのですが、映画としてよく出来ていて、見てる間はとても楽しかったです。

以上、2017年ベストでした。選外となったのは以下の通り。

『It comes at night』『Stronger』『ヒットマンズ・ボディーガード(Hitman’s Bodyguard)』『ダンケルク(Dunkirk)』『ドリーム(Hidden Figures)』『セールスマン(The Salesman)』『Happy Death Day』

それでは皆様、良いお年を。