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2016年映画鑑賞総括

邦画の話題作が多かった2016年。諸事情により残念ながらその波に乗れませんでした。でもやりますよ、今年の映画ベスト発表です。

過去分はこちら↓

2015年鑑賞映画総括 - タケイブログ
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2013年鑑賞映画総括 - タケイブログ
2012年鑑賞映画総括 - タケイブログ

■映画鑑賞本数&総合ベスト10

新作:51本
旧作:6本
合計:57本

2015年の141本からがくっと減ったのは主に環境の変化が原因で、実は今年4月末からトロントに滞在しております。さすが国際映画祭が行われる街だけあって映画へのアクセス環境は悪くないのですが、字幕なしで映画を観るにはまだまだ英語力不足。何より自分自身いろいろと忙しかったというのが正直なところです。

それはさておき、今回も新作から評価基準ごった煮でベスト10を選出しました。

1. 『オデッセイ』
2. 『火の山のマリア』
3. 『ドント・ブリーズ
4. 『ラ・ラ・ランド
5. 『ブレア・ウィッチ』
6. 『死霊館 エンフィールド事件』
7. 『メッセージ』
8. 『マジカル・ガール』
9. 『ズートピア
10. 『手裏剣戦隊ニンニンジャーVS烈車戦隊トッキュウジャー THE MOVIE 忍者・イン・ワンダーランド』

■各作品へのコメント
●1. 『オデッセイ』

課題解決、メッセージ、契約――『オデッセイ』にまつわる私信
本作への思いは、上の記事でほぼ語り尽くしてますが、もう少しだけ補足しておきます。

僕は2015年のベストに『セッション』を挙げ、そこにある「決闘」の精神を称賛しました。合意の下に行われる戦いは、たとえバカげたものであれ崇高さを帯び、人の精神に成長をもたらすものとなる。「決闘」とはたがいに結んだ契約を果し合うことにほかならず、それは裏返って個の肯定、人間賛歌となるのだという趣旨の記事です。

僕は『オデッセイ』をそれらの先にあるものとして受け取りました。ただ一人、火星にとり残された男は無事生還できるのか――イエス。己の生存を疑わず、手を伸ばして助けを求めることによって。そして他者もまた手を差し伸べることで、はじめて救出ミッションは軌道に乗り始めます。本作が描くのは「火星VS人類」の決闘であり、また私達が暗黙のうちに結んだ「共に生き延びましょう」という社会契約が履行されるプロセス、その理想的なかたちなのです。

僕にとって本作は環境が大きく変わったこの一年間を予告し、総決算する映画となりました。
多くの人に助けられて、いま自分はここに立っていると実感しています。

●2. 『火の山のマリア』

コーヒー農園の貧しい小作人一家の一人娘マリア。彼女は地主との婚約に納得しておらず、アメリカ行きを夢見る若者ペペとの駆け落ちに期待を寄せていた。しかしペペは一人逃亡し、さらに残されたマリアはペペの子を身ごもっていた。現代を生きるマヤ族の一家を描くグアテマラ映画。

堕胎から蛇退治に至るまで、彼らの生活には迷信や呪術的な慣習が根付いていて、それが貧困と搾取、アメリカへの幻想といったものと隣り合っている。マヤ語しか話せず学もないマリアは、外の世界に憧れながらもそれらにすがるしかない。結局、彼女は生まれ落ちた土地で一生を終えるのであろう。土着文化と文明の境目にある悲劇を本作は描いていました。

火山とともにあるマリアたちの生活が神秘的に、味わい深く撮られているのがまた何ともやり切れませんでした。諦念とも芯の強さともつかないマリアの表情が何とも美しいです。

●3. 『ドント・ブリーズ

未だに英語の聞き取りは苦手なので、ジジイの背景をきちんと理解できていないのが正直な所なんですが、それでも終始ヒリヒリとした緊張感でいっぱいでした。

何といってもビンビン伝わるジジイのヤバさ。侵入者がいるとわかった途端、盲目ゆえの探り探りな動きから一転して殺しにかかるその挙動、一つ一つに迷いがないのがまた恐い。それでもやっぱり盲目なので、侵入者が難を逃れるチャンスもたびたび訪れる訳です。仮に敵がモンスターか何かだった場合、いちから説明や組み立てが必要な部分が多く、ここまで切り詰めた内容にはならなかったと思います。敵のアドバンテージとディスアドバンテージが明快で、それらが展開にきちんと練り込まれているのが大変素晴らしかったです。

もう一つ印象的なのが舞台となったデトロイトの風景。泥棒女が命からがらジジイの屋敷から抜け出した所で、うら寂しいあの街並みはどこまでも続いている。言ってみればジジイの家なんてその一つでしかなく、どこに何が住んでいるかもわからないような場所なわけです。そして結局、彼女の追い込まれた先がオンボロ車であったことは何だかとても象徴的だと思いました。

私事ですが、こっちでお知り合いになった方が現在デトロイトに滞在中だそうで。どうか生き延びてください。

●4. 『ラ・ラ・ランド

冒頭から「え、このロケーションでミュージカルやんの?」って驚かされたし、頭の中にあったミュージカルのカメラワークをぶち壊してきてがっと心を掴まれました。ジャズピアニストと女優志望、夢を追う二人の切なくも多幸感に溢れるラブストーリー。

次々とモブが歌い踊り出すようなことは意外となくて、二人の世界がしっとりとロマンチックに、それでいて極まった画づくりと色づかいで描かれている。特に日没のロスの空の下で踊るライアン・ゴズリングエマ・ストーンは素晴らしいの一言。最初からお互いに表現力マックスでぶつかっていかず、探り探り距離を縮めていく不器用さ。曲も歌声の映えるシンプルなものが多いのが好印象です。

ダミアン・チャゼル監督が『セッション』で見せた一点集中の過激さは、今作では映画全体に分散してしまった感は確かにあります。それでも「こうきたか!」という場面がいくつもあり、理屈を飛び越えていく瞬間が心地のよい映画でした。ただただ最高です。

●5. 『ブレア・ウィッチ』

タイトルが示す通り『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の正統な続編ですが、ストーリー自体には大きな変化や進展は特にありません。過去作から大きく変わったのは時代をとりまく映像環境。本作ではスマホや高解像度カメラ、ドローン撮影といったさまざまな映像機材が使われています。

ところが進歩した機材が森から暗闇を追い出し、魔女伝説の秘密を明らかにするのかというと……否なんですよね。機材のモビリティはむしろその物理的な限界をあらわにし、それをカバーしていたマルチな視点も一つずつ剥ぎ取られる、最後は残されたカメラで暗闇をわずかな光で駆け抜けていくことになる。POVホラーの限界を押し広げるよりもむしろ原初の闇へと返っていくような作品でした。

今年のホラーだと『ライト/オフ』が80〜90年代ホラーのモチーフを借りたポップな作品だったと思いますが、本作はがっつり映像と演出で勝負していました。いやはや面白かったです。

●6. 『死霊館 エンフィールド事件』

映像と演出で勝負するホラーも好きなんですが、特撮好きの身としてはクリーチャーデザイン、特に「怪人」的なものが大好物。その点で今作は見応えがありました。

ゾーイトロープ(回すと静止画が動いて見えるおもちゃ)、修道女の絵画、昔ながらのアナログテレビ、媒体を通じてやってくる怪異にはけれん味があって、ワクワクしながら見ることができました。家族ドラマも手堅く作られているし、主要な怪現象三つがどう結びつくのか先が読めないのも良かったです(単に英語が理解できてなかっただけかもしれませんが)

それともう一点、プロフェッショナルが怪奇現象の謎に迫るホラーミステリーである点もポイント高いです。ドラマで言えばXファイル怪奇大作戦。このジャンルで最近目立った作品がなかったので、前作とスピンオフに続けて本作が作られたことは思いの外嬉しく思いました。

●7. 『メッセージ』

宇宙船が地球各所に降り立ち混乱の最中にある世界で、言語学者が宇宙人の言語解析に挑む。ドゥニ・ヴィルヌーヴが監督を手掛けるファーストコンタクトSF。ローキーな画面と水中のようなこもった音響の中、映画はじわじわと展開していくので若干忍耐は必要かもしれません。それでも画面一つ一つが美しく、展開にも繊細な抑揚があります。着実にブレイクスルーを重ねて宇宙人のことばを理解していくプロセスには素朴な感動がありました。

本作の中心にあるのは「言語=認識」というアイデア。SF的に目新しくはありませんが、海外滞在中で、なおかつ英語を勉強中の身としてはそれなりに思う所がありました。英文法を学校で一通り習っただけでは、実際にそれをどう運用すればいいかってわからないんですよね。いつ、どこで、どんな感覚でその表現を使うのか。冠詞って、関係代名詞って、いったい何なのか。実際にネイティブ環境で日々を過ごし、言語にじっくり向き合うことではじめて、自分の中に英語的なものの考え方が根付き始める。

その積み重ねがふと自分の抱える漠然とした思いをクリアにしてくれる瞬間があるんです。相手のものの考え方を受け入れた時、自分の内的世界に変化が訪れる。本作に仕掛けられたちょっとしたトリックはそんな感覚をとらえたもののように思います。

●8. 『マジカル・ガール』

「病気の娘のため父親が罪を犯す」というあらすじは作り方次第でどんなジャンルにも転び得る。しかし本作は大胆にも、一人の人間を取り巻く状況の転変ではなく、場面ごとに主役を代えて脅迫関係の連鎖を描いていました。それでいて一人一人の中心にある動機をはっきりと描いておらず、映画は静かに進行していく。そのただならぬ不穏さに最後まで引き込まれました。

台詞も少なく、語られない過去も多いのに、彼らの現状だけはありありと伝わってくる。直接的には描かれない暴力が想像力を掻き立てる。省略と余白の使い方が実に巧みで、コマ割りの上手い漫画を思わせる映画でした。

●9. 『ズートピア

本作がポリティカル・コレクトネスといった現代の文脈を織り込みつつ、いかに多様な観客に向けて作られているか。それは皆さん既に語っている所だと思います。面白くてわかりやすく、それでいて隙がない。本作はディズニーの本領がいかんなく発揮された娯楽作です。

ところで、僕がいま住んでいるトロントは多くの移民が暮らす多文化社会であり、地下鉄の中を見回すだけでも多くの人に出会います。人種だけでなくその体型から年齢までさまざまで、電動車イスを巧みに乗り回す老人や、自転車ごと乗り込んだ家族、犬の散歩途中の人なんかまでいる。そうした人々を眺めていると、一人一人の顔や体が強い存在感を放って感じられることがある。「まるでズートピアのようだな」と滞在から二週間経った頃に本作を観て感じました。そして僕はこの街で何の動物なのだろう……なんてことも思ったりしたものです。

今ではもうすっかり慣れましたが、それでもこの街で暮らしていると、多様性について考えさせられる機会が多々あります。本作は僕自身のそうした経験と結びついて印象に残った一本でした。

●10. 『手裏剣戦隊ニンニンジャーVS烈車戦隊トッキュウジャー THE MOVIE 忍者・イン・ワンダーランド』

VS戦隊シリーズは毎回出来が良いのですが、今作はその中でも屈指の出来だったと思います。

実を言えば、トッキュウジャー自体はそこまで好きではありません。アイデンティティ不安を抱える若者が仲間内でお互いを承認し合う、その内向きなドラマがどうにも苦手だったのです。それでもシリーズを通して人間関係を着実に掘り下げ、登場人物に確かな存在感を与えていったのはさすが小林靖子脚本というべきか。彼らを演じる役者の成長も相まって、最後にはお別れが惜しいくらい愛すべきキャラクターになっていました。

その翌年に登場したニンニンジャーは、ネット通販で巨大ロボが注文できてしまうようなギャグ戦隊。ところが一見バカげた設定や展開には、根性論で物事を済ませずに解決策を模索するという、きわめて理にかなった課題解決マインドがある。また中心モチーフとなる「忍者」も単なるいち職業、いち業界、いち技術として扱われており、そうしたフラットな世界観の下、夢を追う若者のストーリーが外向きにいきいきと描かれていました。

今回のVSでは、両戦隊の対照的なカラーが良い科学反応を起こしていたと思います。トッキュウの幻想的な設定を土台にしてニンニンらしい遊びのあるストーリーが展開する。両戦隊の絡みを見るのは楽しいし、もちろんアクションは安定のクオリティ。スーパー戦隊ファンとしては大満足の一品でした。

以上、2016年の映画ベストでした。その他、選外となった作品は以下の通り。

シン・ゴジラ』『ハドソン川の奇跡』『ブリッジ・オブ・スパイ』『キャプテン・アメリカシビルウォー』『マネー・ショート』『ザ・ウォーク』『完全なるチェックメイト』『ゴーストバスターズ(2016)』

それでは皆様。よいお年を。