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『七人の侍』

 戦国時代、かつて野武士の一団の襲撃を受け略奪の憂き目に遭った村に向けて、再び野武士たちが襲撃を目論んでいた。百姓たちが震え上がる中、野武士に妻を奪われた利吉は彼らとの戦いを主張する。村の長老は百姓たちに意見を問われ、「腹を空かせた侍を雇え」と助言する。こうして利吉と三人の百姓は侍を探しに町へと訪れた。利吉たちの苦労の末、最終的に七人の侍が村へと集まった。来るべき野武士との戦いに向け、侍と農民は力を合わせて戦いに備えるのだった。

 巨匠黒澤明の代表作でもある本作は、前半部で侍探しと野武士の襲撃に向けての準備を、後半部で百姓と野武士たちの合戦を描いている。本作を観るのは今回がはじめてだったが、207分の長丁場ながらも最後までダレることなく楽しめた。
 歴戦の武士であり冷静沈着なリーダーの勘兵衛、勘兵衛を的確にサポートする参謀の五郎兵衛、未熟だが熱意ある若造の勝四郎、仲間を励まし気遣いを見せる裏方の七郎次、いつでも冗談を飛ばす呑気なムードメーカーの平八、真面目で腕の立つ仕事人の久蔵、物語を引っかき回す破天荒な菊千代。個性的な登場人物が自然にかつ的確に配置されていて、各々の魅力を存分に発揮している。本作が後世の作品に影響を与え、「七人のプロフェッショナルが任務を遂行する」という定番のスタイルとなったのも非常に納得がいく話。とりわけ三船敏郎演じる菊千代が魅力的で、勘兵衛の強さに興味をもち、侍たちの後を勝手に着いてまわる菊千代はまるで野生児のよう。粗暴で字もまともに読めず、侍であるかも疑わしい。しかしもっとも人間味豊かな人物でもある。怯える百姓に怒号を飛ばし、群がる子供達を笑かせ、合戦に倒れた仲間の墓前に打ちひしがれ、母を亡くした子供を思い泣き叫ぶ。本能で動く彼の行動は、意図せずして物語に転機を呼び込むことになる。チャンスもピンチも呼び込んでしまう菊千代のトリックスター的な役回りはとても楽しい。またこのようになかなかに難しい役回りの菊千代を三船敏郎はとても自然に演じていて、その演技には思わず唸ってしまう。
 前半部のキャラクターの魅力もさることながら、後半部の合戦シーンも見事。 数々の戦を生き延びてきた知略家の勘兵衛は、地図を片手に村を見回り襲撃に備えて戦略を練る。戦力も物資も乏しいこの村で、如何にして野武士たちを倒すことができるのか。勘兵衛は思案の末、野武士を一人誘い込んでは他を追い返し、野武士を着実に仕留めていく戦法を提案する。柵や堀で敵の侵入経路を制限し、馬に乗って攻め込んで来た野武士を一人ずつ囲い込む。何とも地道で泥臭い戦い方だが、迫力と緊迫感があって最後の最後まで引き込まれた。百姓も侍も村中を奔走する姿には思わず「急げ、急げ!」と声をかけたくなるほどだ。一発逆転となるような奇策がない辺りもまたもっともらしい。

 ところで僕が本作で一番興味深かった点は野武士たちの扱いだ。百姓や侍側の充実したキャラクターとは対照的に、野武士の側はあくまで一団として描かれている。親玉くらいは出るのかなと思っていたのだけど。せいぜい菊千代に種子島(火縄銃)を奪われる野武士にセリフが少々ある位で、野武士側にほとんど固有のキャラクターは存在しない。
 これはおそらく百姓たちにとって真の敵が野武士ではないからだろう。確かに物語上では野武士の一団が加害者だ。しかしそれでは百姓たちは純粋無垢な被害者なのかといえばそうではない。野武士が略奪を繰り返すのと同様、百姓もまた落ち武者狩りを行っていることが物語の途中で判明する。百姓もまた野武士と同じ人間として描かれていて、そもそも彼らの間にイデオロギー的な対立は存在していない。
 貧困や身分の差といった時代が生み出す困難を生き抜くこと。そのために己の力で戦うこと。もし本作で野武士側に個性的な悪役を配置した場合、それらの問題がぼやけてしまうことだろう。だからこそ野武士側の描写を省き、すべてのドラマを村側で展開させることで、作品の陰影を豊かにしているのだと思う。

 総じてみれば本作は、エンターテイメントでありながらも派手になりすぎない、手堅く練りこまれた作品である。登場人物の魅力、合戦シーンの迫力、ひねくれ過ぎずされど勧善懲悪でない物語。これらがしっかりと調和していることが本作が傑作たる所以なのだろう。


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(2007/11/09)
三船敏郎;志村喬;稲葉義男;宮口精二;千秋実

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3月23日 黒澤明 生誕101年記念 「黒澤明を語り継ぐ新たな100年の始まり」

 新文芸座にて特集上映中だったので観に行った。上映終了後は、黒澤プロの元マネージャー野上照代と俳優仲代達也のトークショーに参加。本来仲代氏が出演の舞台が地震により中止、予定に空きが出来たために急遽開催が決定したとのことで、運が良いといっていいものかどうか。
 『七人の侍』では通りすがりの武士の役だった仲代氏、わずか数コマだけの登場シーンのために半日以上も歩き方の指導をされたとのことらしい。他にもいくつかのエピソードがあったが、黒澤監督のこだわりといいかげんさの両方が伝わってきた。あとトークショーの途中で観客の一人が「仲代さんが監督でカラーリメイクを!」とかけ声を上げていたのも印象的だった。ああこういう形でコミュニケーションとるのもありなのか……と思った。
 『七人の侍』の話題はほとんど出なかったが楽しいトークショーだった。

次は『生きる』あたりが観れるといいな。