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吹き荒ぶ娯楽の竜巻――『イントゥ・ザ・ストーム』感想

積乱雲から垂れる漏斗雲、その先端が下方へと伸びていき、やがて大地に触れる。それは渦巻く風となって、稲光を走らせ、電柱をなぎ倒し、木々を巻き上げ、屋根を引き剥がし、車を吹き飛ばしながら進んで行く。

竜巻の猛威を描く本作ではこのように凄まじい破壊が連続する。のみならず、暗闇の中襲いかかる暗黒竜巻、地獄の業火さながらの火炎竜巻、二つの竜巻があわさった合体竜巻等々。けれん味溢れる演出で観客を飽きさせない。竜巻の豊富なバリエーションとその容赦の無い壊しっぷりはまるで怪獣映画のようだ。

実際、その娯楽への徹底ぶりには呆れてしまうほどで、本作は自然災害を描いてもリアルで無残な「死」は描かないのである。ガレキの中迎えるエピローグでは、人々が思いの外ピンピンとしており「今を生きるのが大事」とのたもう始末。そこには自然への畏怖の念などみじんも感じられない。

それでも映画がそらぞらしくならないのは、登場人物に確かな存在感があればこそだ。竜巻追跡班・高校生男女、その父弟等。登場人物はそのシンプルな筋立ての下、逃亡/追跡/救助とさまざまにアクションをとる。ある者ははしゃぎ回り、ある者は必死に逃げる。彼らの具体的な行動がドラマの緊迫感を高めている。

また彼らは各々にカメラを持ち、映画の映像の被写体と撮影者の両方を兼ねている。いわゆるPOV方式であるが、劇中人物が撮りえない映像も織り交ぜつつ映画は主観と客観を巧みに移動する。それにより映像は臨場感に溢れ、編集もテンポの良いものとなり、映画が先へ先へと進んでいくのである。

興奮が興奮を呼ぶスパイラル。その渦巻く中心に、竜巻追跡人が台風の「目」を目撃するクライマックスがある。風が、ドラマが、映像が、すべての動きが頂点に達する瞬間、映画の時間は止まる。その時、私達はスクリーン越しに奇跡の光景を目の当たりにする。

父子の絆の再生も、若い男女の恋愛模様も、人類の果敢なる挑戦も。この八十九分の「竜巻」は何もかもを吹っ飛ばして突き進む。人間ドラマを勢いよく吹き抜け、破壊の渦に観客を次から次へと巻き込んでいく。本作は荒々しくも清々しい娯楽大作だ。


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