タケイブログ

ほぼ年1更新ブログ。

折り合いの付けるための「ハ」――『フランシス・ハ』感想

ルームメイトが恋人と同棲を始め、アパートを出ることになったフランシス。住居なし、定職なし、二十七歳未婚のモダンダンサー志望。本作はそんな彼女の日々をコメディタッチながらもリアルに綴る。

冒頭、親友のソフィーとの「喧嘩ごっこ」は本当に楽しそう。どつき合いながら大笑いし、跳ねるように横断歩道を駆け抜け、同じベッドに横たわって夢を語りあう。二人の無邪気なエネルギーがあちこちに発散し、モノクロの画面が輝いて見える。けれどもソフィーが去り、そこからは方々を転々とする毎日。

男友達二人との同棲に色恋はなし。ダンスも芽が出ず、居候中の知人宅ではきまずい思いをするはめに。折角のフランス旅行もほぼ寝て過ごし、残ったのは借金地獄。何もかもが上手くいかない。そんな人生のダメ期が本作ではこれまでかという位に描かれる。

「二十七歳はまだ若いよね」とフランシスは折に触れて言う。だがその顔には年相応の疲れが浮かんでいて居たたまれない。夢見がちで、行き当たりばったり。気付けば周りの皆はいつの間にか身を固めている。そんな彼女の心許なさはやりとりにもにじみ出る。「やあ、美女よ!」などとおどけてみても、もはやノってくれる相手がいないのだ。

それだけに、再会したフランシスとソフィーがベッドで語りあい、ソフィーが「靴下は脱いでね」とフランシスに言った時は、かつての幸せな時間が戻ってきたかに思われた。しかし翌朝ソフィーは去り、フランシスはアスファルトに立ちつくす。暖かいベッドの外にはいつだって地つづきの現実が待っているのだと。彼女が裸足の足元を見つめるカットが、無情にも青春の終わりを告げるのである。

ラストは穏やかで希望に満ちていた。あてどない旅を終えたフランシスは、自らの足場を固め、振付師として次の道へと踏み出す。彼女は自分なりに物事に折り合いをつけ、自ら収まるべき所に収まった。最後の最後で意味がわかる本作のタイトルは、そのことを端的に表していて秀逸である。


原題:Frances Ha (2012米)
監督:ノア・バームバック(『イカとクジラ』(2005))
脚本:ノア・バームバックグレタ・ガーウィグ(『ローマでアモーレ』(2012))
出演:グレタ・ガーウィグ、ミッキー・サムナー、アダム・ドライバー(『リンカーン(2012)』)
配給・宣伝:エスパース・サロウ