『NO』感想
一九八八年チリ、独裁政権の信任を問う国民投票が行われ、民主化を求める政権反対派が勝利した。その決め手となったのは、投票日までの 27日間、毎日15分だけ放送されたPR映像だ。わずかな放送枠の中で広告マン達がとった戦略とは? 本作は実話を元に賛成派と反対派の宣伝合戦を描く。
その題材やビデオ画質、編集から本作にはドキュメンタリーのような重々しさが漂うが、その実カタルシスがあるのは、誠実なノー派対浅ましいイエス派という明快な構図があるからだ。また両陣営の内幕も具体的で嘘臭さを感じさせない。
ノー派の代表は広告マンのレネ。彼は「皆が本当に欲しいもの」を広告的手法でアピールすべきだと主張し、歌や踊りなどを取り入れつつ「自由の喜ばしさ」を全面的に押し出す。対するイエス派は、現政権の功績を褒め称え、「伸びゆく政治。イエス!」とプロパガンダを繰り返す。
イエス派に立つレネの上司はそのお粗末ぶりを危ぶんで対抗策をうつ。だがそれらも結局はノー派のパクリやネガキャンに過ぎない。彼らの表現は安直かつ場当たりで、とことん思想を欠いている。他方、ノー派は両陣営の対立を男女のベッドトークになぞらえる等、常にユーモアを忘れない。
なぜノー派が勝利したのか? 彼らが最後まで芯を貫いたからだ。イエス派の妨害、内部対立、現場レベルでの衝突。彼らを揺さぶるものは数多い。それでも彼らは頭をひねり、広告のフィールドからメッセージを発信し続けた。彼らの勝利はそうした弛まぬ努力の結果にほかならない。
権力への追従、現状維持、思考停止。世の悪徳はイエスという名の妥協から生まれる。だからこそ、映画は一方でレネにも疑義をつきつける。外国のCMを模倣し、チリの人々と無縁なイメージを垂れ流す。そんな彼の広告的手法や民主化の理想も、所詮「コピーのコピーのコピー」ではないのかと。
ラスト、息子を抱きかかえて勝利のパレードに逆らい歩くレネ。その無表情な顔を通じて、映画は私達にこう投げかける。
妥協するな、考えよ。ノーと言うために。
原題:No (2012チリ)
監督:パブロ・ラライン
脚本:パブロ・ラライン
原作:アントニオ・スカルメタ『El Plebiscito』
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル( 『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004)、『バベル』(2006))
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