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鈴木捧『実話怪談 花筐』

実話怪談 花筐 (竹書房怪談文庫)

実話怪談 花筐 (竹書房怪談文庫)

 

竹書房主催による公募実話怪談「怪談マンスリーコンテスト」からデビューした著者の初単著。全37話収録。

怪談と怖い話。言われてみれば別物でありながら、その二つはしばしば混同されがちであると思う。怖い話は恐怖にまつわる話であり、怪談はあくまで怪しい話である。落とし所のない奇妙なモノゴトにまつわる語り。人が何かを「怖い」と判断したりする以前にある、不可解なものの手触りが本書収録の怪談の数々から感じられた。

個人的にお気に入りだった話を何篇か挙げたい。

「パネル」: 最も怖く、ホラーらしい映像を想像させる一篇。人の形をしたものは恐ろしい。

「宇宙人の涙」: ノスタルジックな小学校の思い出が最後の一言でざらついた後味を残す。

「石へそ」: 山登りが趣味である著者の自然物に対する目線がある。怖いものを書こうとしたらこれは書けない。

ゲルニカ」: 怪談と戦争と芸術。それらを結ぶアイデアが秀逸。

「指切り」: 絶対的他者でない、孤独に寄り添うものとしての怪異があった。

普段映画を見慣れた身から本書を読み、映像というものがしばしば意味を持ち過ぎるものだと改めて感じた。不気味、不穏、気持ち悪い、悍ましい。特にホラー映画などそうした機微の有無にかかわらず、その印象は観客により「怖い」という直感にまとめられてしまう。

しかし怪談はもっと不可解であり、それ故にパーソナルなものなんだと思う。町、田舎、アパート、博物館。至る所に奇妙なモノゴトはあるが、得体の知れない何かと通じ合ったその感触だけは物語る当人のもの。その語りを一つずつ拾い集めていくと、収録された一編「巨人」のように、不思議とまた普遍的な類話が浮かび上がってくる。そこが実話怪談の面白い所でもあるのだろう。