タケイブログ

ほぼ年1更新ブログ。

2013年鑑賞映画総括

という訳で今年もやります。

■映画鑑賞本数&私的総合ベスト10

新作 103本
旧作 58本
合計 161本

※「新作」は2013年に日本で劇場公開した作品(ビデオスルーを含む)
※「旧作」は「新作」以外のもの(同一作品の二回目以降の鑑賞はこちら)

これらの「新作」の中から「好き/嫌い」「面白い/つまらない」「良い/悪い」「巧い/拙い」等々、判断基準をごった煮にして以下を個人ベストとして選出。いわゆる独断と偏見という奴です。

1.『世界にひとつのプレイブック
2.『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』
3.『立候補』
4.『ゼロ・グラビティ
5.『武器人間』
6.『もらとりあむタマ子
7.『アウトロー
8.『ホワイトハウス・ダウン
9.『ホーリー・モーターズ
10.『しわ』

■個別の作品評

1.『世界にひとつのプレイブック

躁鬱病の男とうつ病の女の恋愛」という本作の設定を聞いて「やれやれ」と思う人もいるかもしれない。特定の精神疾患を扱う作品には興味本位でそのテーマを扱ったとしか思えないものや、逆に悲惨さばかりを強調するものも存在するからだ。登場人物の抱える問題をすべて病気に還元してしまうのは作品として底が浅く、また当の精神疾患に対する人々の認識を歪めることにもなりかねない。

しかし本作はそうした態度とはまったく無縁である。精神疾患とその周辺の描写に説得力を持たせながらもそれはメインではない。あくまで登場人物を一人の人間として描き出した上で、本作はいたって普通のありふれたラブコメディ/ホームドラマを成立させるのだ。

確かに彼らの妄想や激情は端から見れば異常であろう。だがその根幹にある思いは理解に難くない。時に激情に駆られ、時に悲しみに沈みながらも、彼らは互いに引かれあい、希望に向けてともに歩みを進めていく。そのドラマが強く心をうつ。また彼らだけでなく他の登場人物も何かしらのダメな部分を抱えている。そんなダメダメでいっぱいいっぱいな彼らを見つめる本作の視線はどこまでも優しい。

本作は、人間への寛容さにより特殊な設定を普遍的な物語へと昇華した傑作である。

2.『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』

テレビシリーズ本編のまどマギは「視聴者を振り回すための展開」と「キャラを虐めるべく用意された箱庭めいた設定」がどうにも好きになれなかった。しかし今回の『叛逆』では既に完結した物語を押し進めた結果、本編の結末への批評とまで言えるものになっている。それは原作ファンの安易な期待をやすやすと裏切るものだ。

その確かな主題の下、本作は映画全体を圧倒的な情報量で埋め尽くす。OPに変身シーン、アクションにアニメーション、どれをとっても映像は目に楽しく鮮烈だ。またファンサービスの数々は同時に不吉さを色濃く漂わせる。「面白いけど好きになれない」作品は数多いが、『叛逆』は初見では消化しきれない程に「面白い」要素がふんだんに盛り込まれている。そのために本作は「面白すぎて好きにならざるを得ない」のである。

映画作品として、あるいはアニメーションとしては『風立ちぬ』や『かぐや姫の物語』に軍配が上がるのかもしれない。この二作と比べれば本作はどこまで行ってもファンムービーの枠を出ないだろう。しかしながら、それは最も豪華で最も俗悪な、そして最も誠実なファンムービーだ。

3.『立候補』

現行の日本の法律下で選挙に立候補するためには300万円の供託金が必要だ。しかも一定数の票が得られないとそのお金は戻ってこない。にもかかわらず何の後ろだてもなく選挙に立候補し、何度も落選し続ける者たちがいる。彼らは一体何者なのか。本作は俗にいう「泡沫候補者」たちにカメラを向ける。

結局、彼らがなぜ選挙活動を続けるのかは映画を最後まで見てもよくわからない。立候補したのに一切選挙活動を行わない者、やけに若い娘を男手一つで育てながら選挙活動をする者、車も出さずに街頭で声かけをする者等々。そもそも彼らはろくな政策すら持っていない。しかし彼らは本気なのである。この「よくわかんないけど本気の人々」の凄みを感じられるのが本作の面白さの一つでもある。また本作は、主な取材対象としてマック赤坂の動向を追うのだが、そのうちに群衆の無自覚な暴力性までもが垣間見えてくる。今の世相を考えるとそれらはいっそう恐ろしく見えてくる。

本作はドキュメンタリーでありながら劇的な場面や映像が多い。非常に見応えのある良作だ。

4.『ゼロ・グラビティ

アルフォンソ・キュアロン監督の作品が素晴らしいのは、あれだけ特殊な映像表現を単なる技術デモにとどめることなく、その内容にきちんと沿ったものに仕上げる点にある。たとえば『トゥモロー・ワールド』における長回しは、空間を連続して映し出すことで地の果てまで広がる作中世界の荒廃を、時間の連続は未来を奪われた人類の絶望を想起させるものだった。

今作『ゼロ・グラビティ』では扱う状況をさらに限定し、宇宙空間に放り出された者の孤独と絶望を映し出す。映像はもちろん音響効果も圧巻の一言で、映画史レベルの作品だといっても過言ではないほどだ。少なくとも今年の映画の中で最も印象的な映像体験をもたらしてくれたことは間違いない。

なお最小限の要素で物語を成立させるためか、本作には象徴的な演出が多い。加えてカメラは自由自在に動き回り、主観と客観をも行き来する。これにより自分と宇宙が渾然一体となるかのような神秘的な雰囲気が本作には漂っている。これらの点とあの力強いラスト、そして原題の「GRAVITY」を踏まえてみると、本作がいかに洗練された作品であるかがよくわかるだろう。

5.『武器人間』

映画作品として上出来とは言い難い本作を僕が推したいのは、本作が洋画でありながら「怪人」を撮しているから、という一点に尽きる。ぶっちゃけ僕自身の趣味である。

ここでの「怪人」とは日本の特撮の、それもスーパー戦隊シリーズのそれに近いものだ。生物や機械としてのリアルさを無視して主要モチーフを前面に押し出し、ツギハギや加算的な発想でパーツを盛り込んでいく。このような造形センスは一見すると児戯めいているが、直感的にわかりやすく遊びにも満ちている。そして何よりも単にリアルさやグロテスクさを追求していては出せない愛嬌がある。だからこそ本作は観客の想像力をかき立てる。

ちなみに本作を上映したシネクイントでは、オリジナルの武器人間の絵を専用スペースに展示すると料金が千円になるという「ぼくのかんがえた武器人間」割引を実施していた。本作の良さを端的に表したとても良い企画だと思う。

6.『もらとりあむタマ子

主演の前田敦子はマンガを読む、飯を貪り食う、目を見ずに喋るといった「ただ何かをする/没頭する」演技が上手い。だからこそ彼女の顔にカメラが向けられる時、無表情ながらも個性的なその顔はいっそう映える。彼女は観客に「彼女はカメラにどう撮られても構わないと思っているのではないか」と思わせる被写体だ。本作では山下敦弘監督の確かな演出手腕により、そんな彼女の女優としての魅力が存分に引き出されている。

たとえば歩道橋の上でたま子が母親に電話するシーンは、「月刊シナリオ」掲載の脚本では二人の台詞が最初から最後まで書き込まれている。だが実際の映画では、自転車を引きながらだらだらと歩く前田敦子の動作がいったん撮され、その間母親の台詞の音声はオフにされている。そして途中で音声がオンに切り替わるとともに、カットも切り替わって彼女の横顔が映し出される。

ここは物語の転換点となる場面だが、もとより起伏の少ないストーリーにドラマ性を与えつつも観客の注意を前田敦子から逸らさない演出となっている。本作には他にもこのような場面が数多く、劇的さや過剰さに頼らない作品のつくりが見事であった。

7.『アウトロー

トム・クルーズがむんむんと放つ「俺様、トム様」ぶりはいつ見ても清々しい。彼こそが真の意味での映画スターではなかろうかと僕は常々思っているのだが、残念ながら今年は『オブリビオン』が凡作だった。映像も設定も既存のSF作品のイメージの集積である上に、トム様の存在がなければ到底成り立たない作品であるからだ。

その点、『アウトロー』は良質な作品だ。映画冒頭の暗殺シーンに始まる緊迫感のある演出、謎の提示から解明までしっかりと作られたストーリー、そしてジャック・リーチャーというキャラクターの魅力。それらの諸要素がトム・クルーズのスター性を殺さず、殺されることもなく確固として存在する。予告編のイメージと比べると地味なのがやや惜しいものの娯楽作品としては文句なしの出来である。

映画の全体がトム様のスター性と拮抗しうるだけの力を備えている。その点において、本作は優れた作品である。

8.『ホワイトハウス・ダウン

テロリストに占拠されたホワイトハウス、クラシックを流しながらシステムを突破するハッカー、圧倒的な不利な状況下で、人質と娘を助けるべく大統領とタッグを組むタンクトップ姿の男、等々、『ダイハード』等の往年のアクション映画を思わせる古臭さ。そのあまりの古くささには驚くばかりなのだけれど、だからこそ本作は安心して見ていられる作品なのだといえる。チャニング・テイタムの人の良さそうな顔も好印象だ。

僕自身は字幕版を観たが、むしろ吹替の方がより楽しめるかもしれない。テレビのロードショーにうってつけの娯楽作品である。

9.『ホーリー・モーターズ

リムジンで降りた先々で様々な人生を演じる主役の姿に、自分の人生の一瞬一瞬を思い出す。別の誰かになりたいとはついぞ思ったことはないが、あの時の、あの自分は、果たしてどこまで自分自身であったのか。何かの役柄を自分に無理矢理課そうとしていたのではないか。そんな考えが頭をよぎる。

映画を見終えてまず感じたのは徒労感。その後、本作のことを思い起こすたびに自分自身の記憶が引き出されてきて映画自体の印象も強まってくる。どこかノスタルジックで不思議な作品。

インターミッションがとにかくカッコいいの一言。

10.『しわ』

認知症のために老人ホームに入れられてしまった男と、ボケ老人どもを騙しながらがめつく金を集める同室の男の物語。未来のない老人たちの話でもあり彼らの友情を描いた作品でもある。

冒頭から展開される過去の記憶と現在が混濁する描写に、同じことを何度も繰り返す老人たちといい、一つ一つにこみ上げるものがある。『ホーリー・モーターズ』が過去の記憶を喚起するとすれば、こちらは未来への想像を喚起する

自分には語りづらいタイプの作品ではあるのだけどこれは素晴らしい作品だった。

■おわりに

以上、若干息切れしつつも2013年の個人ベスト10でした。
厳密な基準を設けないとどうしても印象の強い作品や娯楽大作、自分の趣味に合致するものが残りがちだなあと改めて実感。

最後に、さんざん迷った末に選外にした作品を以下に挙げておく。

フッテージ』『サプライズ』『エビデンス−全滅−』『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-03 人喰い河童伝説』『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-04 真相! トイレの花子さん』『ブランカニエベス』『クラウドアトラス』『わたしはロランス』『パシフィック・リム』『クロニクル』『キャビン』『HK/変態仮面』『凶悪』『マニアック』『みなさん、さようなら』『フラッシュバック・メモリーズ3D』『タイピスト!』

それでは皆様、よいお年を。