タケイブログ

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2014年鑑賞映画総括

今年もやります。過去分はコチラ↓
2012年鑑賞映画総括 - タケイブログ
2013年鑑賞映画総括 - タケイブログ

■映画鑑賞本数&私的総合ベスト10

まずは本数から。

新作 123本
旧作 58本
合計 181本

※新作……2014年に日本劇場公開作(ビデオスルーを含む)
※旧作……「新作」以外のもの(同一作品の複数回鑑賞を含む)

これらの「新作」の中から、「好き/嫌い」「面白い/つまらない」「良い/悪い」「巧い/拙い」等々、判断基準ごった煮で個人ベストを選出。
結果は以下の通りとなりました。

1.『6才のボクが、大人になるまで。』
2.『イントゥ・ザ・ストーム』
3.『悪童日記
4.『プリズナーズ
5.『エレナの惑い』
6.『V/H/S ネクストレベル』
7.『スガラムルディの魔女』
8.『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』
9.『獣電戦隊キョウリュウジャーVSゴーバスターズ恐竜大決戦! さらば永遠の友よ』
10.『グランドピアノ 狙われた黒鍵』

■各作品について
●1.『6才のボクが、大人になるまで。』

来年僕の父が定年を迎え、僕自身も三十路になる。だからであろうか。近頃は時の流れを感じさせる映画にめっきり弱くなってしまった。

今年でいえば『ぼくたちの家族』『インターステラー』がそう。ジャンルの違いはあれ、これらは時間は誰にとっても一様なものでないことを観客に示している点で共通する。辛い時期にふと顔を見せる幸せな日々、目の前で失われていくもう一つの人生。そうしたものを目の当たりにする時、僕は過去から未来に連なる膨大な時間の流れを想像し、つい気が遠くなってしまう。

しかし本作ほどにリアルな時の流れを捉えた作品はあるまい。ある四人家族の十二年間を、同じ俳優を使って実際に十二年かけて撮影した本作。そこには俳優の肉体と演技に老いの年輪が刻まれていく様子が確かにフィルムに収められていた。

あどけない少年の顔つきは次第に精悍になり、自我の芯のようなものが見えてくる。若くて美しかった母親の体型は丸みを帯び、顔には皮膚のたるみと疲れが浮かんでくる。また劇的な出来事は起こらずととも、人の感情は成長や環境の変化とともに移ろいゆく。その機微が本作では実に丁寧に描かれている。

上映時間は166分。映画としては長尺だが、その中で描かれ、実際に記録された12年は瞬く間に過ぎ去っていく。この実体と感覚のズレにこそ、時間というものの本質があるように思う。子供の12年と大人の12年はまったく異なるものなのだと。映画終盤でその事実に気づかされた時、僕は溢れる涙をこらえることができなかった。

●2.『イントゥ・ザ・ストーム』

大竜巻の猛威を描くディザスター映画。作品内に設定された複数のカメラによるPOV映像、リアルな竜巻の破壊描写が凄まじい超弩級の娯楽大作だ。とにかくもう破壊、破壊、破壊の連続で、もはや怪獣映画といった方がいいくらいである。

本作はモキュメンタリーではないが、車載カメラにスマホカメラ等、多種多様なカメラで竜巻を見せている。またドラマは必要最小限にとどめられ、常に人物の行動や反応で映画が進んでいく。観客を興奮の渦に巻き込むため数々の工夫がなされており、その手腕には脱帽せざるを得ない。

しかし何より驚くべきは、これだけの大災害を描いておきながら観客にまったく悲惨さを感じさせない点にある。竜巻の群発はアメリカ人にとってリアルな恐怖であろう。だがその恐怖を背景に作られたはずの本作は、一切後腐れのないアトラクション映画に仕上がっているのである。

その屈託のなさには内心呆れ果ててしまうが、鑑賞後、晴れ晴れとした気持ちで映画館を出られるのだから見事なものだ。

・過去記事
吹き荒ぶ娯楽の竜巻――『イントゥ・ザ・ストーム』感想 - タケイブログ

●3.『悪童日記

ロシアの寒村を生きる少年少女を描いた傑作に『動くな、死ね、甦れ!』がある。誰も彼もが捨て鉢となって罵り喚いているような極寒の地。その中をたくましく生きる少年の姿を映した作品なのだが、彼らに慈愛や懐古の視線を向けるのでなく、眼前の出来事として未整理のまま映しており鮮烈だった。

本作もまた少年の物語だ。第二次大戦末期のハンガリー、祖母の下に疎開した双子の兄弟を待っていたのは過酷な生活。そして大人たちの身勝手で残虐な振る舞いだった。兄弟に優しかった司祭館の娘がユダヤ人を冷笑し、人を殺すのに躊躇のないドイツ軍の将校が兄弟には慈愛の視線を向ける。そんな人間の矛盾に満ちた姿が本作では描かれる。

それらを目の当たりにした彼ら兄弟は、過酷で不条理な世界を何とか生き延びようとする。父のくれた日記に真実を書き、母の言いつけに従い毎日聖書で勉強をする。やがて互いに殴り合って痛みに耐え、生き物を殺し残酷さに慣れるといった「訓練」を始めるようになる。その彼らのいびつな生存への意志におぞましくも惹きつけられる。

しかしそれでも人は強くも弱くもなれないのだろう。父や母と再会した兄弟がとった行動に、そして決して円満ではなかった彼らと祖母との関係の顛末に、僕は絶句した。

●4.『プリズナーズ

少女失踪事件の容疑者が逮捕されるも証拠不十分で釈放。少女の父親が容疑者を監禁して娘を救い出そうとするという衝撃的なサスペンス。しかしなめてかかると痛い目を見る。というのも、本作は登場人物への共感や筋立てのけれん味を楽しむ映画ではないからだ。

主演はヒュー・ジャックマン。『X-Men』シリーズのウルヴァリン役では怒れる男を、『リアル・スティール』では父親を演じた彼は、本作では「怒れる父」を演じている。しかし自前の器具で容疑者に拷問を始める彼に観客はもはや共感不可能となってしまう。拷問の様子はただただ痛ましい。もう一人の主人公には、ジェイク・ギレンホール演じるロキ刑事。聡明で使命感があるにもかかわらず、彼は中々犯人にはたどり着けないのである。

かくして観客は登場人物の動向を俯瞰し、その成り行きを見守る立場に置かれることになる。その結果見えてくるのは彼らに託された神と悪魔の戦いだ。この、個々人の行動を越えた大きな戦いがあるという本作の構図には、『HUNTER×HUNTER』の蟻編にも通じる凄みが感じられる。

●5.『エレナの惑い』

ある老夫婦を描いたロシア映画格差社会や価値観の世代差が描かれており、今の日本にも無縁ではない内容に思える。だが何よりも映画としての完成度が素晴らしい。

まずファーストカットからして驚かされる。老夫婦邸のベランダを枯れ木越しに映しているだけなのだが、長回しの中にフォーカスの移動があり、鳥の出入りがあり、光の変化がある。次いで、誰もいない邸内のカットがいくつか続き、エレナのベッドを映していく。これらは朝の冷たい空気を感じさせるシークエンスであるが、同時に画面からはただならぬ凄みが伝わってくる。

静謐さの中に終始不穏なムードを漂わせ、要所要所で観客の心を抉りにくる。他にも、鏡像へのフォーカス移動による心境変化の表現、類似シーンの反復による対比、等々。若干技巧的すぎるきらいはあるものの、その鮮やかな手腕に惚れ惚れとしてしまう。

本作はスペクタクル映画やジャンル映画のような過剰さによって成立する映画ではない。演技と演出、映像の自然な総合により完成される、正統派の「映画」である。

●6.『V/H/S ネクストレベル』

VHSに録画された出所不明の映像を一編ずつ見ていく……という体で作られた異なる監督による短編オムニバスの続編。1と同じくどの監督も映像へのアプローチを工夫していて、たとえばゾンビ視点の一編があったりするから面白い。

中でもギャレス・エヴァンスの一編は出色の出来。『ザ・レイド』『ザ・レイド GOKUDO』で怒濤のアクションと人体破壊を繰り広げた彼は、本作では逃げることのできない地獄を観客に見せてくれる。必見です。

●7.『スガラムルディの魔女』

強盗団が逃亡の末たどり着いた村で魔女の餌食になるホラーコメディ。B級映画としてとて出来が良く、活気と混沌に満ち溢れた作品だ。

ツカミの強盗シーンはクライムサスペンス風。なのに銀色のキリストや緑の兵隊、スポンジボブやらが登場してけれん味たっぷり。その後ダメ男たちの掛け合いは情けなくも面白い。そして満を持して登場する現代魔女はパンクやマダム。やがて恋愛やモンスターパニックの要素まで入ってくる。

「悪妻=魔女」という発想は身もふたもないが、そこにフェミニズム地母神信仰まで投入され、恐怖とブラックな笑いが生まれている。それでいて画面には終始土着文化の臭みが漂っている。このごった煮ぶりこそがまさに魔女の釜のよう。

本作のアレックス・デ・ラ・イグレシア監督にはぜひコメディ抜きのホラーも撮ってもらいたい。

●8.『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』

ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー』に『X-MEN: フューチャー&パスト』。今年のマーベル映画は傑作揃いであった。しかもこれらはただ面白いだけでなく、アメコミを素材に多種多彩な映画を送り出そうというマーベルの強い意欲が伝わってくる点で好印象だった。本作もまた彼らのそうした挑戦の一つであり、「ヒーロー」が描きうるものの幅を広げた作品であったように思う。

以前『アベンジャーズ』評でも触れたが、同作でキャプテン・アメリカの担うヒーロー像とはすなわち「守れる戦士」であった。己の肉体を鍛え上げ、市民を守るために戦う、使命感溢れる戦士。一方で、その出自ゆえに彼は政治的存在であらざるを得ない。守るための盾で敵を攻撃する彼の姿は何とも象徴的だ。

本作では、そんなキャップの存在を要に「国防」をテーマにした物語が展開する。70〜80年代映画のそれを参考にしたというアクションは荒々しく、その一方で、キャップの過去を巡るストーリーには叙情性がにじみ出ている。他にも、レトロテイストの美術に贅沢なVFX等々映像表現も充実しており、本作の娯楽大作としての完成度の高さにただただ驚くばかりだ。

特にアクション演出が素晴らしい。水平/垂直、広/狭、攻/守、高/低、等々。戦うシチュエーションにさりげなくバリエーションを持たせている。他、冒頭のランニング場面でキャップの身体能力の高さをコミカルに描き、後の船への潜入シーンで似たようなロングを反復するといった小技も巧い。

とかく見応えのある作品である。次作にも大いに期待できそうだ。

・過去記事
コールソンが集めた八人目のヒーロー――『アベンジャーズ』評 - タケイブログ

●9.『獣電戦隊キョウリュウジャーVSゴーバスターズ恐竜大決戦 さらば永遠の友よ』

秘密戦隊ゴレンジャー」から現在放映中の「烈車戦隊トッキュウジャー」まで続いているスーパー戦隊シリーズ。近年では、その年の戦隊と前年の戦隊が共演する劇場版が毎年制作されている。本作は同名の戦隊が登場するその最新作である。

「五人一組を基本とするヒーローチームである」「各メンバーが異なる色のコスチュームを着ている」等々。スーパー戦隊シリーズには40年の間に築き上げられた独自のフォーマットがある。またそれらはデザイン・設定面のみならず、「毎話に必ず巨大ロボの戦闘がある」「決まった時期に新装備が登場する」といった作話に影響するものも数多い。

子供向け特撮番組としてそうしたオーダーの数々をクリアし、いかにシリーズ他作との差別化をはかるか。そんな製作者達の挑戦を見守ることに「スーパー戦隊」の醍醐味がある。そして「獣電戦隊キョウリュウジャー」は、劇場版含む全編の要素を余すことなく使いそれを成し遂げた作品だった。

今回の劇場版もテレビ本編と同様に三条陸が脚本を担当。要所要所に意外性を持たせつつも、安定した筋運びで最終的には王道展開で盛り上げていく。そんな卓越したストーリーテリング技術を持つ氏なればこそ、劇場版の限られた尺の中でもポイントを絞った物語を展開している。また「過去の恐竜モチーフの戦隊のゲスト出演」というオーダーに対しても、お祭り興行で済ませずにきっちりと意義を与えているのが見事だ。他、坂本浩一監督によるアクション演出もサービス精神旺盛でこの上なく楽しい。

映画ベストである以上、単独の映画作品として評価すべきとの向きもあるだろう。しかしそれでも本作はやはりベストに入れておきたい。

●10.『グランドピアノ 狙われた黒鍵』

天才ピアニストが復帰コンサートの真っ最中に何者かの脅迫を受ける。犯人の要求はただ一つ、とある難曲を完璧に演奏すること。「一音でも間違えたらお前を殺す」という犯人にピアニストはどう立ち向かうのか。展開や音楽にヒッチコックの諸作品を彷彿とさせるサスペンス映画。

正直な所、本作の出来はそれらには遠く及ばない。たとえば、事件はステージ上という衆人環視の下で展開し、ピアニストはワイヤレスイヤホン越しの犯人の指示に振り回されることになる。彼の様子は明らかに挙動不審であり、端から見て何かトラブルがあったのがバレバレだ。しかし「彼は久々のステージで情緒不安定なのだろう」と楽団も観客も納得してしまうのである。その後も無理のある展開が連続し、終盤に向かうにつれて犯人はどんどんしょぼくなっていく。

はっきりいえばバカ映画。斜め上の展開が次々と繰り出され、驚き半分呆れ半分と言った心持ちにさせられる。それでも終始緊張感が保たれており、展開一つ一つに瞬発力があるので見応えがある。しかも主演はイライジャ・ウッド。彼の生真面目そうな風貌が役柄にはまり、観客に強い印象を残す映画に仕上がっていた。

ちなみに彼は今年の『ブラック・ハッカー』でも終始テンパっている役柄を演じていた。もうちょい出る映画を考えた方がいいんじゃないか。


以上、2014年の映画ベストでした。以下は惜しくも選外。今年は良い映画が多くて結構迷った。

インサイド・ルーウィン・デイヴィス』『GODZILLA』『インターステラー』『アメリカン・ハッスル』『パズル』『ほとりの朔子』『フランシス・ハ』『NO』『猿の惑星:新世紀』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『MUD-マッド-』『リヴァイアサン』『THE IDOLM@STER 輝きの向こう側へ!』『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー』『X-MEN:フューチャー&パスト』

それでは皆様。よいお年を。