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ミニ貞子が出ればよかったんじゃないかな――『貞子3D』感想

いまや和製ホラーの一大キャラクターと化した貞子は、最新の3D映像技術により『リング』の物語とスクリーンの双方から飛び出した。しかしながら、今作の貞子が画面越しに伸ばす白い腕は決して観客席に届かない。劇中で仄めかされる通り、『貞子3D』は「すべてつくりもの」であるからだ。
『リング』の恐怖とは、虚実の境に仕掛けられた「忌まわしさ」にあった。見てはいけないような不気味な何かがビデオに紛れ込む。媒体の身近さ故に、自分も見てしまうかもしれないという不安が観客に生まれ、貞子がテレビから飛び出す時それは恐怖へと転じる。劇中の人物と同様に自分もまた「見てしまった」のだと気付かされた観客は、日常風景の片隅に得体のしれない何かの這いよる気配を感じるようになってしまう。
このように『リング』の貞子が映画館の外へと飛び出した一方で、今作の貞子は映画館の内側を縦横無尽に暴れまわる。モニタのある所に神出鬼没し、念力ならぬ握力で被害者を増やし、かさかさと猛スピードで這いまわり、貞子はその怪物性を懸命に見せつけてくる。だがそこにあるのはあくまでもアトラクションがもたらす興奮であり、底知れぬ恐怖はない。
また物語自体が安易で、どの登場人物も完全に書き割りに過ぎない。貞子も既存のメロドラマの枠組に収められることで、今作は現実と何ら接点をもたないフィクションと化している。
そんな中、貞子の視点から見た3D映像は注目に値する。暗い井戸や煌々と輝くモニタの裏側からの映像には幻惑的な臨場感が、また貞子が獲物を狙う場面には、貞子と一体化して人々を蹴散らして行くようなテレビゲームのごとき快感があった。
何もかもが飛び出してくる安全設計のおばけ屋敷において、貞子が飛び出す意味は薄い。一方で、作品世界に没入するための「飛び込む」3D演出は、今作の娯楽性を高めている。「奥行き」の追求こそ、モンスター映画としての今作が真に必要とするものである。


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余談。今作では貞子が完全にモンスターと化しているんだけど、その発想が何と言うかキャラ萌えに近くて(新生貞子がかわいいという意味ではない)、「もしも貞子が○○だったら」みたいな二次創作っぽく思えた。あと生命感抜群過ぎて底知れぬ怨念が感じられない

あとここまでやるんならこの際、スマートフォンから現れた善のミニ貞子VS悪の貞子軍団でもいいだろと思う。

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