タケイブログ

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『アクト・オブ・キリング』感想

「虐殺を行った当人に虐殺を演じさせる」この奇抜なドキュメンタリーは、劇映画的な画と編集を随所に織り交ぜながら、虐殺の当事者であるアンワル・コンゴを軽薄な罪人としてキャラ立てする。そして彼はやがて罪悪感を抱き始めることになる。しかしながら、虚実はどうあれその展開は撮影者の嗜虐的欲望に沿った予定調和なものではないか。

 映画撮影という口実の下、監督のジョシュア・オッペンハイマーはアンワルが自ら蓋をしてきた罪悪感を巧みに刺激し彼を責め立てる。ところが本作から「ではお前はどうなのだ」と言う声は聞こえてこない。撮影者本人と観客は終始安全地帯に置かれたままだ。もっとも無邪気な映画好きであるアンワルの姿を見て、本作を自分自身に引き寄せて考える者はいるだろうが。

 このような作品が撮られたこと自体、驚くべきことであるのは確かだ(スタッフロールに流れる”ANONYMOUS”の多さがその重さを語る)。けれども撮影者の意図が前面に押し出される分、本作は多面性と複雑さに欠ける。作品単体では、決して宣伝内容の枠外に飛び出していくことはないだろう。

 逆にいえば、だからこそ観客の側に想像力と問題意識が求められるのだと言える。