タケイブログ

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『テロ,ライブ』感想

終盤、爆破されて倒壊寸前のビルに取り残されたキャスターのヨンファ。メディアからも警察からも完全に孤立無援となった彼は、機材を復旧してひとりテレビ中継を再開する。そしてカメラに向かってこう述べる。

「犯人は私が殺す」と。

それまでの巧みに組み立てられた密室劇から一転して、このような台詞を繰り出すその飛躍力に驚かされる。爆破テロ事件が犯人への生中継インタビューで進行する本作。その根底に流れるのはひとえに理不尽さへの怒りである。

そもそも犯人の犯行動機は告発にあった。かつて政府に使い捨てられた労働者達のため、犯人はテレビという大舞台を利用して高額の補償金と謝罪を政府に要求する。だが政府はテレビ局長と結託し、民衆の批判を避けるべく犯人を凶悪犯に仕立てようとする。他方、番組スタッフや対テロ班も各々に動き回り、現場は混乱を極めることになる。

その渦中に閉じこめられたのがヨンファである。自身と元妻の命の手綱を犯人に握られ、彼には一言のミスも許されない。そんな緊迫感溢れる状況が、本作ではテレビ局のブースという限られた空間の中に描かれる。

イヤホンから聞こえるのは、犯人からの電話と爆弾の作動音。ガラス窓越しには、スタッフや局長、対テロ警察の姿が見える。そしてモニタには、ヨンファに指示を伝えるカンペや各局のニュース番組が映される。その一つ一つが人々の身勝手な思惑をヨンファに投げかける。そして散々彼を振り回した挙げ句、結局はヨンファを切り捨てる。狭いブースの中、ヨンファはいかに社会が腐っているかを、そして自分もまたその一部であることを思い知らされる。

その絶望と怒りを私達は共有するのである。だからこそ、映画はヨンファを閉じ込める密室を壊して幕を閉じる。起爆スイッチを押す時、ヨンファが諦念とも解放感ともつかない表情を浮かべるのが印象的だ。

「こんな世の中はぶち壊してしまえ」

そんな真正直な怒りの爆発に、私は胸のすく思いを覚えた。