タケイブログ

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2019年映画鑑賞総括

皆様いかがお過ごしでしょうか。2019年もいろいろありましたね。

今年は『アベンジャーズ :エンドゲーム』でMCUフェーズ3が完結、SWシリーズが『スターウォーズ:スカイウォーカーの夜明け』でシリーズ完結、それと年の瀬に入って映画秘宝が来年1月に完結……もとい休刊の報。なんなら映画ボンクラもシネフィルも映画ファンも滅びよくらいの事は思ってる身の上ですが、文化を支え、その一角を担っていたものの終わりがこうも一気に押し寄せると、これはもしや2020年人類滅亡の予兆なのかなと思ったりもする。来年は東京オリンピックもありますし。

とはいえ日々は終わってくれないし、ならばせめてもこの一年は締め括っておきたい所。そんな訳で今年もやります2019年映画個人ベスト10。2018年以前の記事は↓からどうぞ。

2018年鑑賞映画総括 - タケイブログ


■映画鑑賞本数&総合ベスト10

新作:51本
旧作:11本
合計:62本

海外生活を始めてから映画を観る本数がぐっと減りましたが、今年は割と数を観れたあたり比較的落ち着いた一年だったなあと。例年通り邦画やアジア映画を観る機会はほとんどなくて、またシネコンで『プロメア』『このすば~』といったアニメ映画はやってたものの見逃してしまいました。

それはさておき2019年個人ベストは以下の通りとなります。 

 

1. ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密 (Knives Out)
2. バンブルビー (Bumblebee)
3. パラサイト(기생충)
4. スノー・ロワイヤル (Cold Pursuit)
5. Ready or Not
6. Stockholm
7. The Art of Self-Defense
8. フリーソロ (Free Solo)
9. ターミネーター:ニュー・フェイト (Terminator: Dark Fate)
10. スパイダーマン:スパイダーバース (Spider-Man: Into The Spider-Verse)


■各作品へのコメント

● 1. 『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密(Knives Out)』


Knives Out Trailer #1 (2019) | Movieclips Trailers

よく出来ていて手堅く面白い作品(大体低予算系になる)を毎年一本は入れたいと思っていて、今年は『Child's Play』『Happy Death Day 2U』『Crawl』『Ready or Not』あたりから出すつもりでした。ところが本作『ナイブズ・アウト』には、それらの類の映画に通じる巧みさを持ちながらキャストも美術も豪華でぶっちゃけ華があった。とりわけ殺人ミステリからジャンルをずらしつつブラックコメディをやる、最後はきっちり伏線回収&謎解きに着地する脚本が完璧でした。

本作の容疑者は一代で財をなした推理小説家の血族。彼らは白人系の金持ちであり、言ってしまえば本作は"White priviledge(白人特権)"の話でもありました。彼ら富裕層がトランプ政権や移民問題を話の種にしていたり、その渦中で南米系の看護師が重要な役回りを演じていたりする等、ポリティカルな要素が割とストレートに出ています。それらはストーリーに不可欠な要素だし、小気味の良い皮肉として作品の彩りともなっている。なお『ヘレディタリー/継承』のトニ・コレットも『キャプテン・アメリカクリス・エヴァンスも今作では前作の役柄とはうって変わって、鼻持ちならない金持ちを演じていて本当に素敵ですよ。

「他がダメでも自分のパーソナルな部分を突いてしまう」作品を僕自身つい評価しがちなんですが、本作はそれらに一切引っかかることなく純粋に面白かった! 生粋のエンターテイメントもまた映画を観る楽しみだなーと再認識させてくれた作品ということで今年の一本として挙げた次第です。

(↓は本作の衣装デザインの妙が伝わる良記事。ネタバレなし)

www.hollywoodreporter.com


● 2. 『バンブルビー(Bumblebee)』


Bumblebee (2018) - New Official Trailer - Paramount Pictures

自動車は交通手段でありながら社会的ステータスであり、旅の足でもありプライベート空間でもあり、また車を持つことや乗れることそれ自体が大人の証となるもの。車とはまさに子供から大人への変身という青年期の象徴だと言える。『トランスフォーマーフランチャイズの中だと2007年の映画第一作目がお気に入りなんですが、1はそうした車というものへのプリミティブな憧れと「イカす車で君もモテモテ!」というあけすけな欲望が見ていて気持ち良かった(主演だった当時のシャイア・ラブーフのイケてなさ具合がまたいいんです)。ただ以降のシリーズになると戦いの規模がやたらでかくなり、ただの大学生だったはずの主人公が防国の戦士のごとく覚醒してしまった。

そうしたマッチョイズムこそがマイケル・ベイ監督の持ち味といえ、「車に変形する人型機械生命体が地球でチャンバラ」なんて子供向けおもちゃの世界に仮託するものかといえばどうなんだという気もする。その点から言えば、シリーズのスピンオフである今作『バンブルビー 』は形は違えど1のパーソナルな規模の物語に原点回帰したものだった。鋼の巨体の頼もしさと裏腹に優しく愛らしい動きを見せるバンブルビー。泣き虫ながらも芯が強く、ちっぽけでも誰かのために動けるチャーリー。孤独なふたりが星を越えて出会い、互いが互いを守り寄り添い合って、最後はそれぞれの世界へと帰っていく。懐かしさ溢れるSFジュブナイル映画であったなあと(というか『E.T.』ですよねこれ)

また監督のトラヴィス・ナイトがアニメーション出身なのもあってか、動きから構図までトランスフォーマーという非現実の魅せ方が上手かった。緑林、砂漠、暗闇、ビーの原色ボディが場所問わず目を引くし、どこを切り取っても画になる構図やポージングが満載。それでいて皆バリバリ動いて変形シークエンスもがっつり見せてくれる。映像演出に誤魔化しがない。派手な色合いをしたロボの巨体がぶつかり合うさまにロボットボクシングが題材の『リアル・スティール』以来の「ロボが殴り合ってる!」素朴な感動がありました。

ロボと少女と80年代レトロ。『シャザム!』なんかもそうですが、僕自身の世代的にもいろいろと思う所はあって感慨深い映画でした。


● 3.『パラサイト(기생충)』


Parasite - Official Trailer (2019) Bong Joon Ho Film

実はポン・ジュノ監督作は未見だったのですが、笑いありスリルあり文化風俗あり現代社会批評あり、後半にかけてどこに転がるかわからないハラハラ感が面白かった。駆け込みで見て良かったと思います。監督本人もネタバレ厳禁と言ってますし、とりあえず観た直後のあたりさわりない雑感を書き散らすことにします。

・今年自分が観た映画の中だと『ナイブズ・アウト』『Ready or Not』が"Fuck rich people"だったし、『万引き家族』や『ジョーカー』は貧困層に焦点が当たってたし、『US』なんて貧富格差に加えて「地下」「家族」というモチーフまで本作と共通していて何だかこう同時代性みたいなものを感じてしまう。ただそれら諸作の中でも、今作『パラサイト』はとりわけ格差の社会構造の視覚化に力を入れていたように思います。たとえば高台にある金持ちの家と貧乏一家の住む半地下の対比のように、上から下へ、位置関係によるヒエラルキーの演出がこれでもかって位わかりやすい。また金持ちの家はスペースがあり整然としている一方、貧乏一家の住む狭い半地下に物がごちゃごちゃしてたのもリアリティがあった。こうした画がコミカルなやりとりの中でも常にあるから後半以降の展開には驚きつつも納得するばかりでした。

・金持ち一家の娘が絵に描いたようなアジアの美少女で、「え、いいのかこれ」と一瞬思ってしまった。このタイプの容姿もキャラもハリウッド映画だと全然観ない気がする。なお貧乏一家の娘のサバッとした感じの方が映画役者として好みです。

・実を言うと僕自身が今こっちでは半地下物件もといベースメントに住んでます。映画みたいに通りには面してはいないものの、小さな窓が高い所にあり日光はあまり入らず湿気も多い。そして時々ゲジも出る。まあ韓国とカナダでは天候も異なるし、劇中で一家四人が住んでる半地下物件と比べたらマシだとは思いますが、それでも住環境があまり良くないのはやはり気が滅入ってしまう。近年はcondoもとい日本で言う所のマンションが乱造されてるし、僕も上へ登っていきたいなーそんな日は来ねーなー……と思ってた所なので何かこう色々とタイムリーな感がありました。

・映画冒頭でカマドウマが"stink bugs(臭い虫)"と訳されてたのが気になり検索してみた所、stink bugsはカメムシだった。まあカマドウマは便所コオロギとも呼ばれるし、「匂い」が作品のキーワードだしぴったりの翻訳なのかな……と思ったけどそもそも韓国語で「カメムシ」って言ってる可能性もあるか。なおカマドウマの方の英語名は"spider cricket"または"cave cricket"。蜘蛛コオロギまたは洞窟コオロギですね。

 ・参考までに↓は韓国人でないと伝わりづらいキーワードのネタバレなし解説。鑑賞前に読んでおくとよいです。

www.konest.com


● 4. 『スノー・ロワイヤル (Cold Pursuit)』


Cold Pursuit (2019 Movie) Official Trailer – Liam Neeson, Laura Dern, Emmy Rossum

麻薬組織に息子を殺された除雪作業員の復讐劇。『96時間』リーアム・ニーソンだけど手に汗握るアクションじゃない!ブラックコメディ!と思いながら見てました。静かながらも爆発するリーアムの暴力とは裏腹に、勘違いから始まる抗争でギャング供がどんどん自滅していく。このギャングの面々が庶民的でどうにも憎めない。偶然の連鎖で事態があらぬ方に向かう辺りコーエン兄弟の映画を彷彿とさせるのですが、淡々サクサクとした人の死に様からは無常感よりもむしろ逆説的な人間への優しさが感じられる。いや人が死ぬ度追悼クレジットが入るからむしろキャラの扱いとしてはむしろ手厚いくらいだし、ギャングや暗殺者がカウンター扱いな『ジョン・ウィック』とは大違いだよ。

映像と音楽にも意外性がありオフビートながらも飽きさせない工夫が節々に見て取れる。見終えた後に不思議な心地よさの残る映画で、僕の中で本作は『グリーンブック』と同じヒューマンドラマのくくりになりました。


● 5. 『Ready or Not』


READY OR NOT | Red Band Trailer [HD] | FOX Searchlight

新婚初夜に行われる殺人かくれんぼを生き延びる理不尽デスゲーム映画。「何で自分がこんな目に……」という絶望からクソをクソなりに生き延びようという反骨心へ。根拠のない希望が湧いてくる娯楽作でした。

ところで話は変わりますが、日本でマイナンバー制度が導入される際「管理社会の到来!」などとその危険性が叫ばれていました。しかしいざ導入されてみれば運用がグズグズで、そもそも政府に管理能力がなかったことが露呈してしまった。システムを作るのも当然人間であり、上から下まで旧弊を引きずったままの社会ではシステムをメンテもアップデートもできずに疲弊していく。今の日本で起こっているそんな笑えない現実を私達は現在進行形で目の当たりにしている訳です。その目線をフィクションに持ち込んだ時、最早いちジャンルとして定着したデスゲームものはそのリアリティに大きな疑問符がついてしまう。『SAW』シリーズのように一部の天才が仕掛けたゲームであれ、『ハンガー・ゲーム』のようにディストピアの制度の一部としてであれ、当然人間抵抗だってするのだし、無情なシステムに人間を組み込んで滞りなく運営できるほど人はそこまで賢くない。要するにデスゲームの神運営なんて土台無理な話。

その点『Ready or Not』は大きな括りでデスゲームものでありながら、歴史が古過ぎてゲームのルールが甘い、参加者がゲームの重要性を理解できていない等々、運営がぐずぐずで何一つ救いようがないのが面白い所。また劇中に具体的な政治的要素やリアルな描写はないにしても、「富裕層の伝統と搾取、その疲弊」に人の生き死が左右されるあたり割と生々しさがある。その他、金持ち一家の面々もキャラが立っていたし、ウェディングドレス姿で必死のサバイバルを繰り広げる主演のサマラ・ウィービングが美しかった。『ナイブズ・アウト』同様に"Fuck rich people"な映画だったと思います。

オチは筒井康隆の初期SF短編じゃねえんだし……って位しょうもないけど潔くて好きです。金持ちに寛容と改心を求める必要はないのだ。


● 6. 『Stockholm』


Stockholm Trailer #1 (2019) | Movieclips Trailers

強盗犯とその被害者である銀行員の間に結ばれる奇妙な関係を描いた本作。「ストックホルム症候群」という言葉の元となった銀行立てこもり事件が題材ですが、その心理を分析するシリアスドラマかと思いきやまさかのコメディ。しかもその中心がイーサン・ホークとなればもう最高じゃないですか。

今作のイーサン・ホークは頭の弱い弟分みたいなキャラなんですが、「ヒャッハー!」と始めた強盗計画が無鉄砲で「やべ、どうする」と慌てふためくし、始めた動機も兄貴分のためなのが健気だし、人を傷つける気はさらさらないのに自分でどんどん追い込まれていくという、愛してもどうしようもないこのダメ人間ぶり。でもその愛嬌に惚れてしまうんですよね。また兄貴分のマーク・ストロングといい銀行員のノオミ・ラパスといい、コメディの中でもそれぞれ役者の色気がほんのり漂っていてとても良かった。

ある意味イーサン・ホーク通常運転なんですが、軽薄と直情を突き詰めた先にあるピュアな愛情と「こういう生き方しかできなかった」男の時の流れを感じさせて、中々に切ない映画でありました。


● 7. 『The Art of Self-Defense』


THE ART OF SELF DEFENSE | Official Trailer

ジェシー・アイゼンバーグといえば、今年は『ゾンビランド:ダブルタップ』がありました。『ゾンビランド』から十年ぶりの続編でオリジナルキャストも集結して安心の出来でしたが、僕としてはこちらの方が面白かった。近年よく話題にされる「有害な男らしさ(Toxic masculinity)」を題材に淡々と進んでいくデッドパンコメディです。気弱な青年ケイシーが強盗に遭ったのをきっかけに空手道場に入門、しかしそれは胡散臭い教えと力に支配された内向きのカラテ・カルトだった。強くなりたい、認められたい。そう言った思いからジェシー演じるケイシーは空手にのめり込んでいくことになる。

そんな本作に関して、フェミニズムの文脈にあるスーパーヒーロー映画『キャプテン・マーベル』との類似点を指摘した以下の記事が印象に残っています。

www.pajiba.com

「何度も立ち上がってきたからこそあなたは英雄なんだ」と誰の中にも抑圧に抵抗する力があることを示したのが『キャプテン・マーベル』なら、『The Art of Self-Defense』は「最後に立っていたものは誰であれ英雄だ」。ケイシーが訥々と語る「僕を脅かすものに僕もなりたい」という言葉は、自分の外側にあって自分を抑圧する側の規範を内面化してしまうtoxic masculinityの本質を鋭く突いたものでした。恐怖と裏返しの力への憧れから日々の生活をカラテで埋めていく、そんなケイシーの姿が可笑しくも痛ましかった。

キャプテン・マーベル』がフェミニズムのエンパワーメントであるならば、本作は有害な男らしさをスポイルする作品であったと思います。


● 8. 『フリーソロ (Free Solo)』


Free Solo - Trailer | National Geographic

来る日も来る日も心身を鍛え、大舞台での一瞬に向けて己を研ぎ澄ませていく。そんな機会スポーツ選手か舞台俳優かでもない限り中々訪れないもので、そうした生業と無関係な人はせいぜい就職面接が関の山か。たとえ何かに挑戦したとして大概はやり直しが効くし、至らない所は「次こそは」と次回の課題に回せばいい。そんな「普通」な身の上からはアレックス・オノルドが成し遂げた命綱なしでのヨセミテ登頂(フリーソロ)は到底理解し難いもの。以下の過去記事ではそうした挑戦者を見守る側の視点から感想を書きました。

tkihrnr.hatenablog.com

その一方で、オノルドという挑戦者の側についても思うことがある。当然ながらフリーソロではささいな失敗や気の緩みが文字通り命取りとなる。だからオノルドは登頂に向けて途方もない鍛錬とシミュレーションを繰り返す。岩肌で姿勢を保つ筋力をトレーニングで維持し、登頂を可能にするルートを試行錯誤の中から見つけ出し、イメージトレーニングと命綱つきで実際に登頂を反復する。そうした経験と鍛錬の積み重ねがあればこそ、オノルドは恐怖でパニックになることもなく登頂を達成した。登頂にかかった四時間は彼自身だけが頼りであり、言うなればその間オノルドはオノルド自身の命綱であったと言える。命を懸けたチャレンジに身を投じることには全く共感しませんが、一つ事への専念と集中力で偉業をなした彼には素朴な崇敬の念を抱きました。

翻って僕自身はどうかと。本作からはそんなことを問われているように感じました。日々いろいろな事柄に気を取られがちなので、その時大事なことにはその都度専念できるようになりたいなあと。まあ気が抜けるとすぐ戻ってしまうんですが……幸いやり直しの効く人生なんでちょっとずつでも命綱を太くしていきたいなと思ってます。


● 9. 『ターミネーター:ニュー・フェイト (Terminator: Dark Fate)』


Terminator: Dark Fate - Official Trailer (2019) - Paramount Pictures

本作についてはTwitterやふせったー(https://fusetter.com/tw/d4AsW#all)でいろいろ書き尽くしました。単品としてもシリーズ新作としても不味い部分を承知しつつも大いに楽しんだ一作でした。Twitterで「ターミネーターは百合」がバズったりもしてましたが、個人的なハイライトはあくまでラストバトル。逃亡から迎撃戦への転換、誰もが前線に立っての集団戦はシリーズ的にも新機軸だったと思ってます。

集団戦といえば『シン・ゴジラ』のような組織戦、優秀なリーダーとそれを支える現場が各々の役割を全うして勝利する「現場プロフェッショナルロマンチズム」的な作品もありますが、NFの場合はそれぞれに動機を持った人々の集まりでした。彼女らが泥臭く困難に立ち向かう中、不揃いの個の足並みが一致する瞬間が格好良い(現場プロフェッショナルロマンチズムに関してはこちらのツイートが説明しています→https://twitter.com/hokusyu82/status/645199820307562497)。また今作のターミネーターRev-9とサラ達のやりとりも好きでした。ダニー抹殺指令に全てを捧げる文字通りマシーンのRev-9が「なぜその女を守る。お前とは無関係だろう」と言うのに対し、リンダ・ハミルトン演じるサラ・コナーが"Because we are not machines."と言い放つ。その場に旧ターミネーターたるシュワちゃんが別の形でいるのが良いですね。

誰かのために動くことができたものは誰でも人間なんだと。非常にど直球ど王道ではありますが、そのやりとりが利他精神とヒューマニズムを象徴するようで、僕の中でNFは2017年の『ワンダーウーマン』に連なる作品となりました。ちなみに来年公開されるワンダーウーマン二作目の舞台はターミネーター1と同じ1984年。かの時代が2020年の現代にどう描かれるのか気になる所です。


● 10. 『スパイダーマン:スパイダーバース (Spider-Man: Into The Spider-Verse)』


SPIDER-MAN: INTO THE SPIDER-VERSE - Official Trailer #2 (HD)

年始に観た時の「凄いものを見た」感覚が未だに残っていたのでこれは入れておきたいなと。アメコミ風シェーディングの3DCGをさらにコマ落とししたかようなあのアニメーションにやられました。コミック風演出を合間に挟み込むのにもぴったりの表現技法だし、コマ撮り人形アニメにも通じる独特の躍動感がある。カラフルで刺激的、とことん観るドラッグな一本でした。

正直ストーリーにはお題目じみた楽天的な理想主義を感じてしまって、僕にとってのスパイダーマンはやはり市民社会のヒーローを描いたサム・ライミ版三部作だと再認識した部分もあったのですが。「大いなる力には、大いなる責任が伴う」の名セリフが言い表すように、それは人は何かをなし得る力を得てしまった時、それにつきまとう困難を引き受けながらも己の役割を社会に見つけていくものだ。たとえきっかけは偶然でも自ら引き受けてなるのがヒーローなんだと。その点、『スパイダーバース』は「誰でもヒーローになれる」「一人じゃない、仲間がいる」がスタートラインにあり、多様性と包括という文脈に則った当世の作品だったと思います。

ただそんな本作が上の名セリフを「みなまで言うな。うんざりだ」と軽くライトに扱って見せたことには感心しました。そんなことはもう当たり前なんだ、深刻さをひとりで負う必要はない、誰もが善をなす力を持っているし、その責任も困難もシェアされていい。社会責任のテーマにおいて、『スパイダーバース』は未来を担う若者達に向けてそんなメッセージを送っていたように思いました。実際今年話題になったグレタ・トゥーンベリの件を巡る諸々を見ていても、若い世代の方がよっぽど環境問題といった未来を自分事として捉えているし、希望と責任感の両方を持って行動していると思う。そこにくると「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という規範意識にした所で無遠慮に他人に向けられたならそれは結局パターナリズムや自己責任論とそう距離の遠くないもの。こういう所に「ファースト以外認めない」「お前たちの平成って醜くないか?」のメンタリティが生まれてくるんだろうな。

自分の力でなしうることとその責任は自任しつつも、手を差し伸べたり差し伸べられたりするくらいがいいんだろうとか。自分が生まれ育つ中で触れてきたもの好きだったものは認めつつも、新しいものに触れつつ価値観のアップデートをしていきたいものだとか。本作のことを考えているうちにそんなことを思いました。

 

以上、2019年映画個人ベストでした。流石に毎年続けていると自分の作品評価の軸が定まってる感じがしますね。

他、選外作品としては『シャザム!』『ジョン・ウィック/パラベラム』『グリーンブック』『ジョジョ・ラビット』『ミスター・ガラス』『アクアマン』『ファイティング・ファミリー』『ミッドソマー』。

いつも読んでくれてありがとう、今回はじめて読んでいただいた方にもありがとう。それでは皆様良いお年を。