その商業的センスに恐れ入ったよ――『お化け屋敷列伝/戦慄迷宮MAX』評
富士急ハイランドにある日本最大級のお化け屋敷「戦慄迷宮」。その恐怖演出が最大限まで引き上げられたMAX版に挑戦する人々の姿を記録した本作。はーん。要は遊園地とのタイアップ企画ね……と侮るなかれ。これがまた生半可な邦画ドラマよりもよっぽど「劇場でみるべき映画」なのだ。
何よりもまず戦慄迷宮というアトラクションそのものの規模に驚かされる。一回の所用時間は約六十分、内装はホラー映画『サイレントヒル』等を彷彿とさせる廃病院風だ。緑色の照明に染まった廊下、暗く薄汚い病室に謎の実験室。その隅々まで念入りに作り込まれており、各所にはアクター扮するお化けが待ち受ける。仕掛けの一つ一つに映画さながらの演出が織り込まれていて面白い。
対する挑戦者は公募で選ばれた参加者五組。彼らの様子は各自持参のカメラや定点カメラで撮される。だが本作にバラエティ番組風のテロップなどは存在しない。断片的な編集でその迷宮ぶりを強調しつつも、映画はあくまで一人一人のリアクションに注目する。高校生カップルが何もかもにビビりまくる一方、外国人カップルは「これ面白いの?」と身も蓋もない反応。特に、周囲が怯える中ずっと真顔だったアイドルの子には凄みすら感じられた。
彼らのこうした恐怖への反応差が映画に緊張と弛緩のリズムを生んでいる。と同時に、「自分ならどうだろう」という観客の想像をかき立てるのである。ちなみに私は本作を一人で見に行ったが、客層の中心はやはりカップルや中高生であるようだ。上映中の劇場はどよめきや笑い声で賑わい、上映後も「今すぐ行きたい」「だめマジ怖い」などと観客の反応がダイレクトに伝わってきた。それらの様子からもこの映画の成功は明らかだろう。そう、本作は実によく出来たアトラクション映画なのだ。
観客は七十一分千円とお手頃にデートを満喫し、制作側は安上がりに映画を撮り上げて遊園地も宣伝する。そんな企画を実現してみせた本作の商業的センスにいやはや何とも恐れ入った。
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