火星調査ミッションに就いていたマーク・ワトニー(マット・デイモン)は
その途中で事故に遭い、たった一人火星に取り残されてしまう。
九死に一生を得たものの、次の宇宙船が来るのは4年後、
食料は数カ月ももちそうにない。そんな困難な状況から彼はどう生き延びるのか。
本作は『エイリアン』の巨匠リドリー・スコット監督が手掛けるSF大作です。
『エイリアン』はそのタイトル通り宇宙生物との戦いを描いた映画ですが、
今作『オデッセイ』では、火星という過酷な環境下でのサバイバルが描かれています。
本作でとりわけ印象的なのが、主人公であるマークの
「火星を殺してやる!」と言わんばかりの前向きさです。
火星で一人ぼっちとなり、絶望に打ちひしがれるのも束の間、
彼はすぐあることにとりかかりました。
それはじゃがいもの栽培です。
「幸い、僕は植物学者だ」
彼は己の科学知識を頼りに手持ちの資源から
土壌、堆肥、水を調達し、地道に試行錯誤を重ねます。
そして幾日も経ったある日の朝、
彼は火星の赤土を盛り上げた畝から顔を出す
青々とした新芽を見つけるのです。
◆
その後も目の前の問題に一つ一つ取り組んでいくマークの姿に
私は強く心を打たれました。
もっとも、それだけの内容なら無人島が舞台でも成り立ちますし、
おそらくDASH村でだってできるでしょう(番組はみたことありませんが)
しかし『オデッセイ』が特筆すべきなのは、映画の早い段階で
地球との通信が成功する点にあります。
そこから火星と地球の間、7,800万kmの距離を超えた共同作業が始まるのです。
マークの救出ミッションをやり遂げるため
多くのプロフェッショナル達が全力を結集します。
火星という難敵を前に人間同士、ちんけな小競り合いをする暇なんてありません。
そこには課題解決における一つの理想が描かれているように思います。
知識と技術と試行だけではまだ足りない、
さらにその上に積み上げられた共同作業こそが
不可能を実現可能なものへと近づけていく。
そして、その実現には何よりも通信の成功が、
すなわち互いを隔てる距離を超え、メッセージを届かせることが必要不可欠なのだと。
途中トラブルに見舞われながらも、
かくして火星と地球の間で着々と作業が進められ、
映画はクライマックスへと向かっていきます。
◆
マークほどではないにせよ現実の私達もまた
数多くの困難に取り囲まれています。
ではそうしたものに立ち向かう意志は、いったい何によって育まれるのか。
正義感か、家族愛か、名誉欲か、はたまた罪悪感といったネガティブな感情か。
――否、恐らくはそのいずれでもありません。
映画のクライマックスでは、マークと彼を迎えに来た救助隊が
それぞれに大きなリスクを伴う行動をとります。
危険を承知しながらも、彼らはそれを己の役割として引き受けるのです。
私は、ここに人間社会の基盤をなす考え方、
人と人が暗黙のうちに結ぶ「契約」のかたちを見てとります。
「お互いに差し出せるものを差し出し合い、皆で共に生き延びましょう」
本作から私が受け取ったのはそのようなメッセージでした。
この私の見方が妥当なものであるかどうかは
ぜひ映画を観て自分の目で確かめてみてください。
何にせよ、「契約」によって結ばれた人々は己の領分を定め、
各々に取り決めを果たし合います。そうやって互いに助け合い、
お互いを個人として尊重しながら生きていく。
それこそが、人が困難に立ち向かう力の源となるのだと。
私はそう考えます。
◆
私達は、そんな人間関係を築いているでしょうか?
何も仕事に限った話ではありません。
親子、夫婦、友達同士、先輩と後輩、教師と生徒。
それらはあらゆる人々の間に生ずるものです。
私は、あなたとの「契約」を果たしているか。
あなたは、私との「契約」を果たしているか。
私は、私との「契約」を果たしているか。
その都度、自分自身に問いかけてみてください。
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