タケイブログ

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【※追記訂正あり】デヴィッド・F・サンドバーグ監督『シャザム!』短評


SHAZAM! | Official Teaser Trailer | DC Kids

大人の姿をしたスーパーヒーローになる力を得たビリーと、里親の下で共に暮らすその友人フレディ。スーパーパワーに沸き立つ彼らのはしゃぎぶりがほほ笑ましく、どこか懐かしいのは、映画のスターやヒーローに憧れたかつての僕らがそこにいるからだ。スーパーヒーローの新しい在り方を模索するマーベルを後目に、DCの『シャザム』は80年代アメリカ映画への憧憬を隠さない。

舞台のフィラデルフィアは『ロッキー』。オフィスビルの大惨事は『ロボコップ』、ショッピングモールでの格闘は『コマンドー』、夜の遊園地は『ビッグ』。至る所に往年の名作を思わせる風景が刻まれている。また夜景やネオン、チープさを残した合成、一見現代的なPOV演出からも、ブラウン管越しに映画スターを見つめた映像体験が甦ってくるようだ。監督のデヴィッド・F・サンドバーグは過去、自ら主演監督した短編『KUNG FURY』でも80年代アクション映画に熱烈なオマージュをささげていた。彼のオタクぶりは相変わらずだが、その感性は今作で万人が楽しめるファミリー映画にまで昇華されたといえる。

何よりビリーの成長と、新しい家族を得るまでのドラマがユーモラスで楽しい本作は、今の子供達にとってお守りのような映画となることだろう。少年が本の世界に耽溺した『ネバーエンディング・ストーリー』、クリスマスを子供ひとりで戦い抜いた『ホームアローン』、悪ガキどもが冒険を繰り広げた『グーニーズ』。かつてサンドバーグが映画から受け継いだ魔法の数々を継承するおまじない、それこそが『シャザム!』にほかならない。その魔法は現実の何者をも救ったり傷つけたりせず、ただ傍にあるからこそ価値がある。

ところが、ひとたび大人がその魔法を手にしたなら、それは危うい力となるのである。女性のエンパワーメントを強く意識した『キャプテン・マーベル』をバッシングしているのは『シャザム!』の熱烈なファンであるという。現実との接点を欠いた子供向け作品は保守的な思想と相性が良く、感傷と郷愁に塗れた「大きな子供達」が新時代を脅かす勢力になり得ることは心しておかねばならない。いつか魔法を手放す日がやってくる。そうしたテーマと向き合った上で、この現代にスーパーヒーローを描けるか。そこにデヴィッド・F・サンドバーグの真価が問われている。

 

Director: David F. Sandberg
Writers: Henry Gayden, Darren Lemke
Stars: Zachary Levi, Mark Strong, Asher Angel, Jack Dylan Grazer

 

*2019年4月21日追記

本記事でデヴィッド・F・サンドバーグを『Kung Fury』の監督主演だと書きましたが、正しくは『Kung Fury』のデヴィッド・サンドバーグ(David Sandberg)は同性同名の別人のようでした。肝心なところでの事実誤認であり、見当外れな記事になってしまいました。読んでくれた方々には申し訳ないです。 

ちなみにこの事実は映画評論家小野寺系(@kmovie)さんのツイートで知りました。小野寺系さんの『シャザム!』評が素晴らしいのでぜひ読んでください。

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