タケイブログ

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それゆけ!MUKADEMAN――『ムカデ人間』感想

ムカデ人間』公式サイト(※一応、グロ注意)
http://mukade-ningen.com/

 ヨーロッパを旅行中のアメリカ人女性の二人組は、ドイツ郊外の森を走行中に車のタイヤがパンクしてしまい、立ち往生してしまう。助けを求めて二人が暗闇の中を歩き回ると、かつてシャム双生児の切除の専門医であったハイター博士の邸宅へとたどり着く。
 しかし博士には邪悪な企みがあった。それは人間の口と肛門をつなげて、「ムカデ人間」を創造しよう企みだ。

 手書きのムカデ人間絵が何ともポップな本作だが、その内容はタイトル通りにくだらない。しかしワンアイデア頼りの映画ながらも、ホラーの定番を踏まえた構成を土台に、目を背けたくなるおぞましさとほっと息を抜けるような笑いを同居させている。終盤の展開はいま一歩なものの、カルトホラーとして話題になったことには納得の出来だった。

 ムカデ人間の姿が気になる方は予告編を観るかググるかしてほしい(ただし責任は持たない)。その見た目もなかなかにトラウマものだが、本作で一番恐ろしいのは、なんと言ってもムカデ人間にされてしまうという状況そのものだ。
 想像してみてほしい。ふと目が覚めるとそこは見知らぬ部屋で、見知らぬ人間とともに監禁されている。そこに白衣を着た医者が現れて、これから手術を行うと述べる。混乱し、泣き叫ぶのも意に介さず、医者は淡々とその内容を説明していく。三人の口と肛門をつなげて一列に並べる「ムカデ人間」の手術だ。抵抗に失敗し、再び目覚めると、自分の姿が変わり果てたことに気づく。博士がうれしそうに向けた鏡に映っているのは……。
 ああ何とおぞましいことだろう。肉体を改造されてしまう恐怖、実験動物として扱われる屈辱、逃れることの出来ない絶望感。スクリーン越しに見ていても痛ましくて、胸糞が悪くなるほどだ。

 これらの状況を映しただけで、本作はホラー映画としては半分成功しているといっても良いだろう。しかしおぞましさを映す一方で、後半では所々に笑いが挟み込まれている。
 特にディーター・ラーザー演じるハイター博士のキャラが立っている。ホームベースのごとくエラの張った顔、オールバックにグラサン、白衣着用という博士の出で立ちには、マッドサイエンティストの風格に満ち溢れている。
 そんな彼はムカデ人間を作る動機について、「私はシャム双生児の切除をしてきた。今度は創造する番だ」と説明している。一見もっともらしいので聞き流しそうになるが、よく考えると何の説明にもなってない。要はただの変態で、特に崇高な目的がある訳でもないので、その薄っぺらさは言葉の通じない日本人ヤクザにまで看破されてしまう始末。
 森の中に、庭付き、地下室付き、電動式のフタ付室内プールのある大邸宅を建てる位に裕福なのだから、現役時代の博士はかなりの名医だったのだろう。しかし犯行の手口はぞんざいきわまりない。出来上がったムカデ人間をうっとりと眺め、罠にはめようとして凡ミス頻発し、癇癪を起こす姿には微笑ましさすら感じられる。本作で一番のおちゃめさんだ。
 北村昭博が演じる日本人ヤクザもまたよい。状況にそぐわぬ彼のセリフの間抜けさと、ムカデ人間にされてなお博士に立ち向かおうとするカッコよさは、本作唯一の清涼剤だ。それだけにラストの方は残念であった。

 きちんと見所を作っている本作だが欠点もまた多い。特にウチが気になったのは、グロ描写を徹底していないこと、ムカデ人間の結合部をしっかり見せていないこと、ムカデ人間の逆襲に工夫がないことだ。
 痛々しいのは苦手なので個人的にはこのグロさで十分だ。けれども作品としては、歯を抜く、腱を切るといった痛々しい場面をもっと強調し、結合部をしっかりと見せたほうがよい。直接的に見せずに創造力を掻き立てるやり方も間違いではないけれど、むしろここでは惨たらしく見せることで、「もう自分の体は元に戻れないのだ」という絶望感を示した方が後の展開に活きてくる。チープな特殊メイクでもいいから結合部を見せるべきだったと思う。
 それらを踏まえた上で、博士を倒し、出し抜こうと知恵を絞る展開が観たかった。ノロノロチェイスという珍奇なバトルも面白いが、やはり物足りないし、あの結末はお粗末だ。ムカデ人間にされ、人間の尊厳を踏みにじられてもなお戦おうとする姿があれば、物語がもっと豊かなものになっただろうに。

 ウチはこの手のグロ映画・B級映画にあまり馴染みもないし耐性があるわけでもないけれど、それでも楽しめるように本作は作られている。とはいえわざわざ遠出して夜遅くに観るほどでもないので、グロ耐性のある人が興味の向いた時に観ればいいと思う。