タケイブログ

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白石晃士監督作『カルト』感想

7/20-7/26の一週間限定上映。公開初日に鑑賞してきた。

 ありきたりの心霊レポートが思わぬ方向に……というのはホラーの定番なんだろうけど、その過程で「いかがわしさ」をどんどん積み重ねていく白石監督のやり方は相変わらず上手い。

 たとえば霊能者の描き方。そもそもホラーに出てくる「霊能者」って、彼らの宗教的背景が漠然としていることが多い。本作もその例にもれず、出てくる霊能者が九字切ってるんだか般若心境なんだかよくわからない文言を唱えてたりする。それだけならまだ「定番よね」ってことでスルーできるけど、本作では途中からその霊能者の師匠が登場する。携帯電話越しにお祓いしたり、霊障に遭ってる親子を「定期的にお祓いをしてるから安全」なマンションに一時避難させたり(無菌室ならぬ無霊室かよ)してしまう。
 また心霊現象の演出の方にも遠慮がなくて、空中に消えた皿の破片が後ほど女の子の身体から出てきたり、CGで黒いミミズみたいなのを出したり、憑依された女の子の動きを逆回し&早送りで移したりするような、およそリアルさを重視するなら絶対出てこないような演出ばかり。
 あくまでフィクションだと観客に了解してもらった上で、畳みかけるように斜め上のアイデアインパクトのある絵づらを出していく。そうやって作品の枠を押し広げていけばこそ、最強の霊能者・ネオの存在を観客に受け入れさせることができるのだなあと感嘆した。

 そしてこのネオというキャラクターがまた何とも強烈。黒スーツに黒手袋をしたこの金髪の若者は一見するとホスト風ながら、他の霊能者が太刀打ち出来なかった霊を謎の力で調伏してしまうチート性能、常に不遜な態度で「オレはオレを信仰している」とまでいってのけるそのカッコよさ。ぶっちゃけ後半からの彼の活躍こそが本作の見所であって、前半はその衝撃を高めるための前フリだといってもいい位。
 ただその中でも自分が面白いなーと思ったのは、ネオの「いってみりゃこいつは呪いの爆弾みたいなもんだ」というセリフ。
 ここでは心霊現象が何らかの意図の下に人為的に作られ、人間に物理的な作用を及ぼすものとして説明されている。つまり人智を超えた心霊現象が「なんとなく対処できそう」なレベルまで引き下げられてるわけです。これは何も今作だけのことではなく、『コワすぎ!』シリーズの工藤Dが発したかの名言「実験だよ、実験!」もまた同じ。たとえ原理がわからずとも、場合によってはタイマンも可能なものとして心霊現象が扱われている。
 白石作品はしばしば壮大な恐怖を描いているけど、こういった部分を見ると思いの外「人間だって心霊現象と戦えるんだ!」っていうヤケクソめいた希望があるように思う。もちろん彼らが実際に勝てるかどうかとは話が別なんだけど、ホラーにおける幽霊等がしばしば異次元空間を生み出しちゃう位に理不尽な中、人間が対抗しうる余地を存分に残しているケースは希有なんじゃないだろうか。

 あまつさえ今回の『カルト』ではヒーローを作っているので、観客の「俺が幽霊に出くわしたらパンチ食らわせてやんよ! シュッシュッ!」っていう欲望を存分に満たしてくれる。そういった点でも、今作はとても痛快な作品だったと思う。