タケイブログ

ほぼ年1更新ブログ。

映画

おおかみこどもは「アニメ」の嘘をつく――『おおかみこどもの雨と雪』評

雪山の銀世界を駆ける子どもたち。かと思えば、その姿はたちまち狼と化していく。母親は彼らを追って転げ回り、倒れ込んだ先で二人をぐっと抱き寄せる。 三人は屈託のない笑顔で笑い合う。 狼人間の雨と雪、それに彼らの母親である人間の花。風変わりな家族…

「映画」を目の前に立ち上げるために−−『CUT』評

映画についての映画である。 だが古びた教養主義を掲げ、映画の堕落に嘆息するようなシネフィルのお説教映画ではない。だとすればこうも力強い映画とはなり得なかっただろう。 もっとも秀二はそう見られかねない人物である。拡声器を片手に街頭で「映画は売…

「音の粒」という音楽のありよう――『楽隊のうさぎ』評

第一に、演奏。チューバが轟き、トランペットが高鳴り、クラリネットが踊る。吹奏楽部が題材の本作にはパート練習の場面が多く、さまざまな楽器が思い思いに音を奏でる。 第二に、構成。プロを目指して退部したフルート担当、コンクールに出られず涙をこぼし…

ダメ邦画について――『永遠の0』『ジャッジ!』『抱きしめたい』感想

「邦画はダメ」だと言われて久しいが、果たしてそれは本当だろうか。 映画界全般ではなく作品そのものに話を限定すれば、ここでの邦画とは主に大衆娯楽の色が濃い作品−−ベストセラー小説や漫画原作の実写映画、テレビドラマの劇場版、あるいキャストがウリの…

2013年鑑賞映画総括

という訳で今年もやります。■映画鑑賞本数&私的総合ベスト10新作 103本 旧作 58本 合計 161本※「新作」は2013年に日本で劇場公開した作品(ビデオスルーを含む) ※「旧作」は「新作」以外のもの(同一作品の二回目以降の鑑賞はこちら)これらの「新作」の中から…

『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』

英国人録音技師のギルデロイは、新たな赴任先のイタリアのスタジオで初めてホラー映画の音響製作に携わる。だが閉塞した環境の下で彼は次第に狂気に陥っていく。本作は彼の主観に沿ってその様子を追う。"シッチェス映画祭"ファンタスティックコレクション201…

不安の種は日常に蒔かれる――『不安の種』評

バスルームで女性が髪を洗っている。ふいに、湯船の水面がざわめき始め、次第に山のように盛り上がっていく。だが女性はシャワーを浴びていて気付かない。水の中から彼女を見つめる、人の頭のような「ナニカ」に。翌日、隣室の主人公は彼女が死体で発見され…

白石晃士監督作『カルト』感想

7/20-7/26の一週間限定上映。公開初日に鑑賞してきた。 ありきたりの心霊レポートが思わぬ方向に……というのはホラーの定番なんだろうけど、その過程で「いかがわしさ」をどんどん積み重ねていく白石監督のやり方は相変わらず上手い。 たとえば霊能者の描き方…

『V/H/S シンドローム』感想

若手映像作家6人によるホラーアンソロジー。ある屋敷に侵入したチンピラたちが、そこに遺された謎のVHSテープを一本ずつ観るという、いわゆるファウンド・フッテージものです。 個人的には大いに楽しみましたが、とても万人向けではないなというのが正直な感…

彼はヒーローであっても変態ではない――『HK/変態仮面』評

何より主演の鈴木亮介が見事だ。ほぼ全裸の体をくねらせての格闘、股間の「おいなりさん」を駆使した必殺技の数々。次々と繰り出されるきわどい絵面は彼の鍛え上げられた肉体により鮮烈さを増している。また彼の実直そうな顔は、変態仮面の正体・色丞狂介役…

過剰なショーマンシップの果てに――『オズ はじまりの戦い3D』評

まず3D演出の迫力。切り絵風のOPクレジット、燃え上がる炎、しゃぼん玉の膜。飛び出して見える被写体の選択が適切だ。とりわけ急流下りの場面はオズ視点の映像とあいまって臨場感がある。また『オズの魔法使』を踏襲する画面色の変化の演出にはサイズの変…

ジャッキー・チェンは優しすぎる――『ライジング・ドラゴン』感想

以前、アテネフランセ文化センターで開催された「映画の授業」。その講義で講師を担当していた塩田明彦氏は、確か次のようなことを話していたと思う。 「ブルース・リーが革命的だったのは、通常の肉弾戦がありふれていた中、彼のハイキックが「いかに高く飛…

2012年鑑賞映画総括

去年までmixiの方で簡単にやっていた映画ランキングを、今年は備忘録がてらこっちに引っ張り出してみることにする。 ■視聴作品本数○新作 57本 ○旧作 50本 ○計 107本※新作は2012年日本で劇場公開された作品及び発売されたVシネマ ※旧作は名画座や映像ソフトで…

力なき言葉の会話劇――アッバス・キアロスタミ『ライク・サムワン・イン・ラブ』評

窓ガラスがぶち破られ、エンドロールが始まる。むしろ清々しさすら覚える唐突な結末がさらけ出すのは、映画から言葉の力が失われる瞬間だ。 たとえば明子は弁が立たないため、コールガールの仕事を断るのにも恋人のノリアキへの言い訳にも失敗する。幼稚さの…

シャンカール監督・ラジニカーント主演『ロボット』感想

百万馬力、精密動作、内蔵火器、……等々数多くの機能を備えるチッティは言うなれば夢のスーパーロボットである。だが彼は人間の感情を解さず、融通も利かないことから次々と騒動を巻き起こしてしまう。それらのシチュエーションはリアリティに囚われない数々…

『グレイヴ・エンカウンターズ』についてのメモ書き

コリンウッド精神科病院――広大な敷地をもつその病院には、1895年間から65年間にわたり8万人もの重度の精神障害者が入院し、多くの患者が院内で命を落としていった。 現在廃墟であるこの病院には不吉な噂が絶えない。笑いながら徘徊する幽霊の目撃証言、かつ…

『湖中の女』にゲームっぽさをみる――ロバート・モンゴメリー監督・主演『湖中の女』

湖中の女 [DVD]出版社/メーカー: ジュネス企画発売日: 2011/02/25メディア: DVD クリック: 8回この商品を含むブログ (2件) を見るクリスマスの三日前、私立探偵フィリップ・マーロウは、ホラー専門出版社であるキングズビー出版社のオフィスにやってきた。探…

『別離』についてのメモ書き

1.物語について・家族を守るために吐いたわずかな嘘。そのために彼らは皆、泥沼に陥っていく。・ホッジャドを打ち負かし、正しさを証明せねば解決にはならないと思うラデル。娘を守るために示談をもちかけるシミン。ここに男女の違いを感じる。・利発そう…

ミニ貞子が出ればよかったんじゃないかな――『貞子3D』感想

いまや和製ホラーの一大キャラクターと化した貞子は、最新の3D映像技術により『リング』の物語とスクリーンの双方から飛び出した。しかしながら、今作の貞子が画面越しに伸ばす白い腕は決して観客席に届かない。劇中で仄めかされる通り、『貞子3D』は「…

「ほれぼれし」さこそ英雄の資質――『戦火の馬』感想

「ある馬が、次から次へと人の手に渡りながらも戦場を生き延び、やがて元の飼い主と再会する」という奇跡を描いた話。一見すると感動のドラマでありながら、その実何が言いたいのかについてはあえて曖昧にされているように思う。何よりその奇跡の理由の大部…

「家族」から離れて息の抜ける場所へと ――ヤン・イクチュン監督作『息もできない』感想

友人マンシクの下で働くサンフンは借金の取り立てを行う日々を送っていた。一度火が付いたら誰に対しても暴力をとめられない彼は、およそマンシクの手に余る程に粗暴なチンピラだった。そんな彼の人生には子どもの頃のある出来事が影を落としていた。 ある時…

それゆけ!MUKADEMAN――『ムカデ人間』感想

『ムカデ人間』公式サイト(※一応、グロ注意) http://mukade-ningen.com/ ヨーロッパを旅行中のアメリカ人女性の二人組は、ドイツ郊外の森を走行中に車のタイヤがパンクしてしまい、立ち往生してしまう。助けを求めて二人が暗闇の中を歩き回ると、かつてシ…

アッバス・キアロスタミ監督作『クローズ・アップ』感想

失業者のサブジアンはふとしたきっかけから、ある一家に対して自身が敬愛する映画監督を騙ることになった。彼は一家に出入りするようになると、お金や食事の無心を続け、架空の映画製作を一家とともに進めた。当初は一家から尊敬と歓待を受けていたものの、…

「人間」江野祥平と「モンスター」村田幸雄−−白石晃士『超・悪人』感想

例のごとくネタバレがあるので注意! ■ 男がカメラに向かって話しかけている。ジャンパーを羽織り、厚手の手袋をはめ、風変わりなサングラスをした坊主頭のその男は、手にしたハンディカムをあらぬ方へと向ける。どうやらそこはマンションの一室であるらしい…

アンドレイ・タルコフスキー『惑星ソラリス』

昨日は久々に新文芸座のオールナイト上映を観にいった。上映作品は『惑星ソラリス』『ストーカー』『鏡』の三本、アンドレイ・タルコフスキー特集である……のだが、後ろの二本でまるまる寝てしまって結局、単なる『惑星ソラリス』の再視聴となってしまった。…

ジョルジュ・メリエス『月世界旅行』

物語は科学者たちのケンケンガクガクの会議模様に始まる。整備を終えた大砲型のロケットに乗り込んだ科学者たちは、人々から盛大に見送られて地球を出発する。猛スピードで発射されたロケットがあばた顔の月に突き刺さる(ポンキッキで使われた有名なシーン…

『素晴らしい一日』

『素晴らしい一日』 http://www.cinemart.co.jp/subarashii/貸した金を返してもらうために、元カレと一日行動をともにするはめになった女性の物語。平安寿子の短編小説をイ・ユンギが映画化した本作は、さながら大都市ソウルを舞台にしたロードムービーとい…

『アンチクライスト』

ラース・フォン・トリアー監督作『アンチクライスト』 http://www.antichrist.jp/ 雪の降る晩、ある夫婦がセックスに没頭している最中に幼い息子が窓から転落し、命を落とす。事故のショックで妻は精神を病んでしまう。セラピストである夫は妻を救うため、精…

『七人の侍』

戦国時代、かつて野武士の一団の襲撃を受け略奪の憂き目に遭った村に向けて、再び野武士たちが襲撃を目論んでいた。百姓たちが震え上がる中、野武士に妻を奪われた利吉は彼らとの戦いを主張する。村の長老は百姓たちに意見を問われ、「腹を空かせた侍を雇え…

『ホーリー・マウンテン(デジタル・リマスター版)』

"聖なる山"には9人の不死の賢者が住み、そこから現世を支配しているという。キリストを思わせる風貌を持つ盗賊の男は、実業家や政治家など世界で最も権力を持つ8人の男女と共に、錬金術師の導きの下、"聖なる山"へと辿り着くための修行と儀式を積み重ねる。…