タケイブログ

ほぼ年1更新ブログ。

ジミー・グラルトンの歩んだ自由の道――『ジミー、野を駆ける伝説』感想

一九三二年内戦後のアイルランド。農民達がある小さなホールを村に再建した。そのリーダーとなった実在の人物ジミー・グラルトンを描く本作は、生の歓び溢れる自由への賛歌である。 緑いっぱいの丘陵を農民達は馬車に揺られてやってくる。農具を握ったその手…

恋と怒りを闘志の糧に−−武正晴『百円の恋』評

三十二歳ひきこもり女が人生やり直しをかけボクシングに挑戦する本作。主人公・一子のバイト先である百円ショップは救いがたい人だらけだ。おしゃべりで下心丸出しの中年バイト、廃棄弁当を持ち去る陰謀論者のオバサン、いつも愚痴と悪態を撒き散らす店長。…

2014年鑑賞映画総括

今年もやります。過去分はコチラ↓ 2012年鑑賞映画総括 - タケイブログ 2013年鑑賞映画総括 - タケイブログ■映画鑑賞本数&私的総合ベスト10まずは本数から。新作 123本 旧作 58本 合計 181本※新作……2014年に日本劇場公開作(ビデオスルーを含む) ※旧作……「新…

動きが刻む生の軌跡――『抱きしめたいー真実の物語ー』評

過去の交通事故が原因で半身麻痺と記憶障害を患うつかさと、網走でタクシー運転手をしている雅己の日々を綴る本作。その冒頭、雅己が知り合ったばかりのつかさをタクシーに乗せるくだりが印象的だ。雅己はタクシーのドアを開けると、つかさを抱きかかえて座…

『NO』感想

一九八八年チリ、独裁政権の信任を問う国民投票が行われ、民主化を求める政権反対派が勝利した。その決め手となったのは、投票日までの 27日間、毎日15分だけ放送されたPR映像だ。わずかな放送枠の中で広告マン達がとった戦略とは? 本作は実話を元に賛成…

折り合いの付けるための「ハ」――『フランシス・ハ』感想

ルームメイトが恋人と同棲を始め、アパートを出ることになったフランシス。住居なし、定職なし、二十七歳未婚のモダンダンサー志望。本作はそんな彼女の日々をコメディタッチながらもリアルに綴る。冒頭、親友のソフィーとの「喧嘩ごっこ」は本当に楽しそう…

吹き荒ぶ娯楽の竜巻――『イントゥ・ザ・ストーム』感想

積乱雲から垂れる漏斗雲、その先端が下方へと伸びていき、やがて大地に触れる。それは渦巻く風となって、稲光を走らせ、電柱をなぎ倒し、木々を巻き上げ、屋根を引き剥がし、車を吹き飛ばしながら進んで行く。竜巻の猛威を描く本作ではこのように凄まじい破…

鬼才・園子温監督もDJとしては二流である――『TOKYO TRIBE』評

トーキョー各区を牛耳る徒党(トライブ)。その抗争を描く本作は世界初の「バトル・ラップ・ミュージカル」である。現代版『ウエストサイド物語』であるかと思いきや、『マッドマックス2』『時計じかけのオレンジ』『キル・ビル』の要素もある怪作だ。何より…

カメラが世界に投げ込まれる時――『リヴァイアサン』感想

漁船が舞台のドキュメンタリーである本作がいささか特殊なのは、何よりもその「不明瞭」さにある。映画は暗闇からやってくる。軋み、さざめき、泡立つようにいくつかの音が鳴り、時折何かが映り込んでは消えていく。やがて粒子の荒い画面に、錆びついた鎖の…

『テロ,ライブ』感想

終盤、爆破されて倒壊寸前のビルに取り残されたキャスターのヨンファ。メディアからも警察からも完全に孤立無援となった彼は、機材を復旧してひとりテレビ中継を再開する。そしてカメラに向かってこう述べる。「犯人は私が殺す」と。それまでの巧みに組み立…

人間の條件、猿の條件――『猿の惑星:新世紀(ライジング)』感想

かの名作へと連なる新シリーズ二作目。前作同様、CGとモーション・キャプチャーによる猿達の一挙手一投足から目を離せない。映画は人類衰退の経緯を説明した後、シーザー率いる猿達の狩りから始まる。彼らは身振り手振りで意志疎通を行い、片手の槍で勢い…

『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』感想

「大人になりきれない大人」に突きつけるべき問いはただ一つ。お前は大人になりたいのか、それとも子供のままでいたいのか、である。未来へ踏み出すにせよ過去にすがり続けるにせよ、いったん自分の現状を直視してはじめて彼の選択は切実さを帯びる。カタル…

『アクト・オブ・キリング』感想

「虐殺を行った当人に虐殺を演じさせる」この奇抜なドキュメンタリーは、劇映画的な画と編集を随所に織り交ぜながら、虐殺の当事者であるアンワル・コンゴを軽薄な罪人としてキャラ立てする。そして彼はやがて罪悪感を抱き始めることになる。しかしながら、…

雪と歌と白々しさと――『北のカナリアたち』評

「家族がほしかった」と、たどたどしく、搾り出すように語る信人の姿が痛ましい。恵まれない環境に育ち、吃音症を抱える彼は、生き難さというものを一身に抱え込んだ存在だ。しかし彼の切実さにこの映画は実のところ何も応えていない。 たとえば中盤で存在が…

コールソンが集めた八人目のヒーロー――『アベンジャーズ』評

たとえばキャプテン・アメリカの場合。彼の登場は生身での鍛錬シーンに始まり、出動時には市民を盾で守りながら参上する。そこには使命感に満ちた戦士の姿がある。 あるいはハルクの場合。この怒れる怪物は、その巨躯で空母を内部からぶち壊していく。だが彼…

おおかみこどもは「アニメ」の嘘をつく――『おおかみこどもの雨と雪』評

雪山の銀世界を駆ける子どもたち。かと思えば、その姿はたちまち狼と化していく。母親は彼らを追って転げ回り、倒れ込んだ先で二人をぐっと抱き寄せる。 三人は屈託のない笑顔で笑い合う。 狼人間の雨と雪、それに彼らの母親である人間の花。風変わりな家族…

「映画」を目の前に立ち上げるために−−『CUT』評

映画についての映画である。 だが古びた教養主義を掲げ、映画の堕落に嘆息するようなシネフィルのお説教映画ではない。だとすればこうも力強い映画とはなり得なかっただろう。 もっとも秀二はそう見られかねない人物である。拡声器を片手に街頭で「映画は売…

「音の粒」という音楽のありよう――『楽隊のうさぎ』評

第一に、演奏。チューバが轟き、トランペットが高鳴り、クラリネットが踊る。吹奏楽部が題材の本作にはパート練習の場面が多く、さまざまな楽器が思い思いに音を奏でる。 第二に、構成。プロを目指して退部したフルート担当、コンクールに出られず涙をこぼし…

ダメ邦画について――『永遠の0』『ジャッジ!』『抱きしめたい』感想

「邦画はダメ」だと言われて久しいが、果たしてそれは本当だろうか。 映画界全般ではなく作品そのものに話を限定すれば、ここでの邦画とは主に大衆娯楽の色が濃い作品−−ベストセラー小説や漫画原作の実写映画、テレビドラマの劇場版、あるいキャストがウリの…

2013年鑑賞映画総括

という訳で今年もやります。■映画鑑賞本数&私的総合ベスト10新作 103本 旧作 58本 合計 161本※「新作」は2013年に日本で劇場公開した作品(ビデオスルーを含む) ※「旧作」は「新作」以外のもの(同一作品の二回目以降の鑑賞はこちら)これらの「新作」の中から…

『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』

英国人録音技師のギルデロイは、新たな赴任先のイタリアのスタジオで初めてホラー映画の音響製作に携わる。だが閉塞した環境の下で彼は次第に狂気に陥っていく。本作は彼の主観に沿ってその様子を追う。"シッチェス映画祭"ファンタスティックコレクション201…

デヴィッド・ブルックス『迷宮都市』感想

オーストラリアの文学者・デヴィッド・ブルックスによる短編集。友人から紹介されていたのをやっと読了した。 本書に収録された短編のほとんどは数ページ程度の長さであり、その内容は不思議なシチュエーションを描いた一種の幻想小説である。だが必ずしもそ…

不安の種は日常に蒔かれる――『不安の種』評

バスルームで女性が髪を洗っている。ふいに、湯船の水面がざわめき始め、次第に山のように盛り上がっていく。だが女性はシャワーを浴びていて気付かない。水の中から彼女を見つめる、人の頭のような「ナニカ」に。翌日、隣室の主人公は彼女が死体で発見され…

愛あればこそ! ――瀬川深『ゲノムの国の恋人』感想

ゲノムの国の恋人作者: 瀬川深出版社/メーカー: 小学館発売日: 2013/07/24メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る 瀬川深『ゲノムの国の恋人』を読了。ゲノム解析を専門とする日本人研究者が、「七人の令嬢の中から最も理想的な花嫁を選んでほし…

白石晃士監督作『カルト』感想

7/20-7/26の一週間限定上映。公開初日に鑑賞してきた。 ありきたりの心霊レポートが思わぬ方向に……というのはホラーの定番なんだろうけど、その過程で「いかがわしさ」をどんどん積み重ねていく白石監督のやり方は相変わらず上手い。 たとえば霊能者の描き方…

『V/H/S シンドローム』感想

若手映像作家6人によるホラーアンソロジー。ある屋敷に侵入したチンピラたちが、そこに遺された謎のVHSテープを一本ずつ観るという、いわゆるファウンド・フッテージものです。 個人的には大いに楽しみましたが、とても万人向けではないなというのが正直な感…

彼はヒーローであっても変態ではない――『HK/変態仮面』評

何より主演の鈴木亮介が見事だ。ほぼ全裸の体をくねらせての格闘、股間の「おいなりさん」を駆使した必殺技の数々。次々と繰り出されるきわどい絵面は彼の鍛え上げられた肉体により鮮烈さを増している。また彼の実直そうな顔は、変態仮面の正体・色丞狂介役…

過剰なショーマンシップの果てに――『オズ はじまりの戦い3D』評

まず3D演出の迫力。切り絵風のOPクレジット、燃え上がる炎、しゃぼん玉の膜。飛び出して見える被写体の選択が適切だ。とりわけ急流下りの場面はオズ視点の映像とあいまって臨場感がある。また『オズの魔法使』を踏襲する画面色の変化の演出にはサイズの変…

距離を測り合う人びと――『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』第二話感想

「生まれ変わったら、熊になりたい」 生物のレポートでなぜか群れたがる人びとへの批判を展開した挙句、そのように書きつける。奉仕部に入部してなお比企谷八幡は相変らずだ。 昼休み、雨天により憩いの場である屋上が使えず、八幡は仕方なく教室で昼食をと…

ジャッキー・チェンは優しすぎる――『ライジング・ドラゴン』感想

以前、アテネフランセ文化センターで開催された「映画の授業」。その講義で講師を担当していた塩田明彦氏は、確か次のようなことを話していたと思う。 「ブルース・リーが革命的だったのは、通常の肉弾戦がありふれていた中、彼のハイキックが「いかに高く飛…